[174]
藤木大地(カウンターテナー)

2015年9月15日 出演

174_藤木大地(カウンターテナー)

©K.Miura

東京オペラシティができたばかりのころ。ぼくは東京で声楽を学ぶことを夢みて宮崎からレッスンに通う、藝大受験生でした。地下のレストランでステーキをご馳走になりながら、東京のおじに「大ちゃんもそのうち、ここのホールで歌うのかな? 」と言われました。藝大に入ることよりも、声楽のプロになることよりも、遠い遠い夢のように感じました。2012年。そのおじが亡くなった2ヶ月後に、日本音楽コンクールで優勝しました。会場は東京オペラシティ コンサートホールでした。あのときの会話を思い出し、「間に合わなかったな」という思いがありました。人が集うところには、その人たちの歴史があり、記憶があります。ぼくにとって東京オペラシティは、そのような場所です。これからも音楽に惹かれた人が集まり、新しい歴史と記憶が生まれる、素敵な広場でありますように。20周年、おめでとうございます!
一生に一回のB→Cでの演奏は、その年の演奏活動のハイライトとして位置付け、かなり張り切った(これからももう実現しないような)プログラミングをしました。実は公演の1ヶ月ほど前に体調を崩し、声が出せない状態が続きました。自分の大きな顔のあのポスターがあちこちに貼られている。プログラムは大きく、委嘱新作にも向き合わなければならない。しかし声はなかなか戻らない。そんなプレッシャーの中で過ごしたその1ヶ月のことは忘れません。共演者をはじめ、多くの人に支えられて迎えた本番では、いつも以上の集中力でバッハからコンテポラリーへの音楽の旅ができました。あの2時間の公演は、ぼくの演奏キャリアの中でも最高に印象深い思い出のひとつとなっています。

[近況](2017年3月現在)
2017年4月にウィーン国立歌劇場にデビュー。同じ日にファーストCDもリリースされます。まわりへの感謝と音楽への尊敬をいつも忘れず、そのときの自分ができることを誠実に、一歩一歩、ベストを尽くして行うことを心がけています。