「エレメント」構造デザイナー セシル・バルモンドの世界

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イントロダクション

セシル・バルモンドは、エンジニアリングの枠を越えて建築家と創造的な協働を行う構造デザイナーです。構造エンジニアと聞くと、建築家によってデザインされた建築を、力学や施工などの制約をふまえて物理的に成り立たせ、建物にじょうぶな骨組みを与えるための技術的なサポートをする縁の下の力持ちとしての役割がイメージされるでしょう。しかしバルモンドの仕事はそこにとどまりません。「丘の上に空飛ぶ絨毯のように家を飛ばしたい」「運動がみなぎる四角の箱をつくりたい」建築家から寄せられるこのようなリクエストに独特のアプローチで挑み、彼らの実験的な思考を実現に導くバルモンドには、世界中の建築家から期待と信頼が寄せられています。

スリランカに生まれ育ち、アフリカ、ヨーロッパで科学、数学、建築を学んだバルモンドは、イギリスの総合エンジニアリング会社アラップに加わり、以来レム・コールハース、伊東豊雄、アルヴァロ・シザを始めとする世界の名だたる建築家とともにさまざまなプロジェクトを手掛けてきました。バルモンドが生み出す新しい幾何学は、建築を従来の四角、三角、円を基本とした静的で閉じたものから解き放ち、複雑さをはらんだ動的で有機的なものへと飛躍させて現代建築の可能性を大きくひらきました。最新のコンピュータ技術と施工技術を駆使しながらも、バルモンドの思考の原点は私たちにとって身近なものにあります。太陽を求めて回転しながら成長する植物、枝分かれする葉脈、燃えさかる炎のゆらめき、刻々と変化する陽の光。自然のしくみに注目し、その豊かで美しい秩序を構造に採りいれるバルモンドは、建築に脈動、鼓動を与えて命を吹き込みます。

テクノロジーの粋を集めた現代的な建築でありながら、バルモンドがデザインする構造はその建築を訪れる人びとの奥底に眠る本能を呼び覚まし、感覚と知性を刺激します。自然の形を単に模倣するのではなく、その根源にある美しさを抽出して広がりを持った幾何学へと展開するバルモンドは、建築を既存の枠組みから解放する人としていま最も注目を集める存在です。
東京オペラシティアートギャラリー
© 2009 Tokyo Opera City Art Gallery