観葉植物などでつくられたジャングルのような空間の中に、大理石の彫刻5点と籐で編まれた高さ2メートル以上のバナナ・ツリーの作品6点が配置されます。曽根は過去にも、展示空間を大型の観葉植物でいっぱいにしたジャングルを創り出していますが、彼にとってジャングルは人工物(ホワイトキューブの美術館)と対極にある始原のイメージであり、混沌(カオス)であり、前人未到の未知の世界の象徴と言えるものです。
大理石の彫刻は、石工の街として知られる中国の崇武(そうぶ)で、そこの石工たちと協働で制作されました。今回の新作のなかで最も注目されるのは、長さ2m65cm、幅85cm、高さ55cm重さ1.4tの《リトル・マンハッタン》(2010年)です。この作品の制作のために、曽根は、ニューヨークのマンハッタン島の空撮写真や資料を丹念に調べて、長い制作時間をかけてビルのひとつひとつまでも丁寧に彫り出し、大理石によるこのマンハッタンのミニチュアを制作したのです。マンハッタン島をまるごと大理石の彫刻にしてしまうという果敢な挑戦によって、白亜の大理石は圧倒的な存在感を見せています。
《リトル・マンハッタン》(制作風景)
大理石 2010年 Courtesy the artist and David Zwirner, New York
《リトル・マンハッタン》(制作風景・部分)
大理石 2010年 Courtesy the artist and David Zwirner, New York
また、《木のあいだの光#2》(2010年)と題された作品は、文字どおり、木漏れ日をモチーフにしたものです。木漏れ日という、樹木や大気などの自然が見せるつかの間の光学現象を、大理石という素材を使って永遠性をもつものとして造形化しています。大理石は古代より彫刻の素材として用いられ、時間を結晶化することのできる素材であり、《木のあいだの光#2》は、相反する二つの時間、一瞬の儚さと永遠が同時に現れる作品とも言えます。一方、曽根は半永久的に残る自然素材で、人間が作り上げた人工のビル群が立ち並ぶマンハッタン島も造形化しました。そしてそれらの彫刻作品は、美術館の中に人為的に創られたジャングルの中に置かれるのです。このように、曽根裕は、人工と自然というものを、単純に対比させるのではなく、複雑に絡み合ったものとして作品化することで、自然と人間のあり方についても再考を促します。前人未到の領域に果敢に挑戦する曽根裕ならではのユニークな展示と言えるでしょう。
《木のあいだの光 #2》(制作風景)
大理石 2010年 Courtesy the artist and David Zwirner, New York