本展では、さわの最初期の作品から一貫して見られる領域への関心をテーマとして展覧会を構成しています。旧作から本展のために制作された最新作まで、映像、ドローイング、立体作品をとおして、さわ自身、そして私たちひとりひとりにとっての「領域(テリトリー)」について考えていきます。
1. Under the Box 箱の下
展示の冒頭は、迷路のような狭い通路にドローイングと、さわが身の回りに置いているティーカップや化石などを型取りした小さな石膏の彫刻が並びます。さわの映像では、アパートの部屋を小さな生きものが歩き回るなど、閉ざされた空間の中の現実を少しゆがめて領域や境界を意識させる作品が多くみられます。また実際の空間だけではなく、人をその人たらしめる個人の記憶など、形のない領域についても考えさせられます。外界からの情報は人の意識の中に蓄積され、時とともに醸成されてその人固有の世界を作り出します。《Lineament》は、記憶を喪失してしまった友人の存在から、記憶という時間軸をともなった領域について考えた作品です。
《Lineament》
2012
courtesy of the artist and Ota Fine Arts
《Did I ?》
2011
courtesy of the artist and Ota Fine Arts
2. Behind the Radiator / Plumbing ラジエーターの後ろ / 配管
ラジエーターはヨーロッパの住宅にあるセントラルヒーティングシステムですが、配管を通じて別の部屋に繋がっていく構造や、境界を作りながらも反対側を覗き見ることができるという特徴をさわは意識しています。さわのロンドンのスタジオを思わせるようなスペースには、書棚やテーブルの上にも映像と立体作品が配置され、別の領域との接点が日常性と身の回りのものにあることがうかがえます。
《Dwelling》
2002
courtesy of the artist and Ota Fine Arts
《Souvenire IV》
2012
courtesy of the artist and Ota Fine Arts
3. Beyond the Bounds 境界の向こう側
スコットランドの古い天文台で撮影された新作《Lenticular》は、プラネタリウムのような巨大なドーム型のスクリーンに空の様子や抽象的なイメージが投影され、独学の天文家ロバート・ロウの声が音楽と重なって聞こえます。遠く宇宙から地上に届く星の光と、光を集めて放つレンズは、ある距離を隔てて形を成す映像との相似を感じさせます。また、本展のために制作されたもう1点の新作では、巨大な鏡を用い「別世界への入り口」を見せます。さわの関心は室内から屋外へと変化しますが、その領域自体が広大な宇宙に広がっていくのではなく、望遠鏡や配管などを通じて遠くの世界に繋がっているようです。さわ独自の感覚を、空間全体から体感することができるでしょう。
《Lenticular》
2013
courtesy of the artist and Ota Fine Arts
《Aurora》
2013
courtesy of the artist and Ota Fine Arts