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ミルチャ・カントル Mircea Cantor(1977- )
オラデア(ルーマニア)生まれ、パリ在住。写真、彫刻、インスタレーション、映像など表現方法を限定することなく制作するミルチャ・カントル。ヨコハマトリエンナーレ(2011)では、女性たちが真っ白な砂の上を輪になって箒で前の人の足跡を消しながら歩み続ける映像作品《幸せを追い求めて》を出品しましたが、ユーモアを感じさせながらもアイロニカルで、見る者の心理に不安定な状況を作り出します。本作では作家自身の息子がたどたどしい英語で「僕は世界を救わないことにきめた」と繰り返します。意味のわからないまま言葉を発しつづける幼い子の無邪気さと、シリアスな言葉の意味の対比は世界が抱える複雑な問題を感じさせます。
《僕は世界を救わないことにきめた》
2011
Courtesy the artist and Yvon Lambert, Paris
オマー・ファスト Omer Fast(1972- )
エルサレム生まれ、ベルリン在住。オマー・ファストは一貫して映画の手法によるストーリー性の強い映像作品を制作してきました。一つの映像をバラバラにして組み替えるカットアップや、複数のカメラによる多角的な視点によって、個人の体験や記憶、歴史がどのように作られてきたのかを見る者に問いかけます。本作ではドイツ人の夫婦が戦地から帰還した息子を出迎え、自宅で夕食を共にするまでの場面が描かれます。しかし同じストーリーが何度も繰り返され、そのたびに息子は新しく入れ替わります。本作は5年に1度ドイツのカッセルで開催される国際美術展ドクメンタ13(2012)で大きな話題を呼びました。コンティニュイティ(連続性)とは、映画の編集でもちいられる技術的用語でもあります。
*上映時間は約40分です。時間に余裕をもってご来場ください。《コンティニュイティ》
2012
Courtesy the artist, gb agency, Paris, Arratia, Beer, Berlin, Dvir Gallery, Tel Aviv
image: Philip Wölke
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス
Peter Fischli David Weissペーター・フィッシュリ:チューリヒ生まれ、チューリヒ在住
ダヴィッド・ヴァイス:チューリヒ生まれ、チューリヒにて没。フィッシュリとヴァイスはチューリッヒを拠点として1979年より共同制作を開始しました。自ら着ぐるみを着てネズミとクマに扮し、人間社会の不条理を映し出す作品でも知られ、日常の視点にユーモアとアイロニーを織りまぜながら、新たに生まれる意味や価値を問いかけます。本作では15台のスライドプロジェクターによって、日、独、英、伊4カ国語のさまざまな質問が壁面いっぱいにランダムに映し出されます。何気ないつぶやきから、生きることの本質に触れる哲学的な問いまで、見る者が答えを見出す間もなく次々と浮かび上がっては消えていきます。《無題》
1981-2001 2003年のヴェネチア・ビエンナーレでの展示風景
© Peter Fischli David Weiss, Zürich 2014, Courtesy Sprüth Magers Berlin London, Matthew Marks Gallery, New York, Galerie Eva Presenhuber, Zürich
ライアン・ガンダー Ryan Gander(1976- )
チェスター(イギリス)生まれ、ロンドン在住。ライアン・ガンダーは日常の中のささいな事象について深く探求し、それらの意外な組み合わせから生じるずれによって、隠れた意味を想像させます。《マグナス・オパス》はラテン語で「最高傑作」の意味。人感知センサーで動く目玉と眉が会場で作品を鑑賞する人々の動きを追いかけ、見つめます。鑑賞者と作品を逆転させ、美術館という場における作品と鑑賞者の関係に問いを投げかけています。
《マグナス・オパス》
2013
© Ryan Gander, Courtesy the artist and TARO NASU
photo: Martin Argyroglo
リアム・ギリック Liam Gillick(1964- )
アリスバーリー(イギリス)生まれ。ロンドン/ニューヨーク在住。1960年代のミニマルアートを思わせる立体や、抽象的な言葉を壁一面に配置する作品で知られるリアム・ギリックは、1990年代に注目を集めたYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の一人です。彼の制作の根底には美術作品が人々にどう作用するかへの関心があり、リレーショナル・アート(ものごとや人同士の関係性を作品とする芸術)の代表的な作家の一人でもあります。《任意空間》はフランスの哲学者ジル・ドゥルーズの著作『シネマ 1』に記された概念であり、ギリックが参加したニューヨークのグッゲンハイム美術館でのグループ展(2008)のタイトルにもなりました。本展では壁面いっぱいに「The anyspace whatever…」の文字が現れます。
《任意空間》
2004
© Liam Gillick, Courtesy the artist and TARO NASU
photo: KIOKU Keizo
ピエール・ユイグ Pierre Huyghe(1962- )
パリ生まれ、パリ/ニューヨーク在住。映像、音楽、建築、デザインといった様々な領域を横断するピエール・ユイグは制作によって美術や展覧会の定義を問う制作を続けてきました。ユイグは国際美術展ドクメンタ13(2012)で発表した《未耕作地》で、カールスアウエ公園の中にさまざまな生物による独自の生態系からなる「場」を作り出しました。美術と自然が入り交じり、フィクションと現実の境界の曖昧な世界では、ピンク色の脚の犬、頭部が蜜蜂の巣で覆われた大理石の裸婦、蟻塚、水中の生物・・・それらが生を営み、死に、また新たな生命が生まれます。《未耕作地の場景》はその記録ともいえる映像作品です。
《未耕作地の場景》
2012/2013
© Pierre Huyghe, Courtesy the artist, Esther Schipper, Berlin, Marian Goodman Gallery, New York, Paris
小泉明郎 Koizumi Meiro(1976- )
群馬県生まれ、神奈川県在住。小泉明郎は、人間の記憶やトラウマなどの問題を、人間心理への洞察を通して問う作品で国際的な注目を集めています。本作は、携帯電話で母親に電話をかける若い男性の姿を追う映像作品です。一見都市の中で垣間見る情景ですが、後半において、通話の相手の声とともに映像が反復されると、見る者を当惑させる事実が判明します…。コミュニケーションのすれ違いや人間の感情がいかにたやすく操作されるものであるかを目の当たりにして、見る者の感情移入という予定調和は見事に打ち砕かれるでしょう。
《僕の声はきっとあなたに届いている(シングル・スクリーン・ヴァージョン)》
2009
Courtesy Annet Gelink Gallery, Amsterdam
グレン・ライゴン Glenn Ligon(1960- )
ニューヨーク生まれ、ニューヨーク在住。アフリカ系アメリカ人であるライゴンは、さまざまな分野から引用した言葉をもちいた作品で知られています。本作は、アフリカ系アメリカ人のジェームズ・ボールドウィンによる1953年のエッセイ「村の異邦人」からの引用によるもので、石炭生産で発生する産業廃棄物の炭塵(たんじん)によって繰り返し描かれたテキストは厚い層となってなかば判読不能になっています。それは白と黒、光と影といった相反するものへの意識や、マイノリティとしての自らをとりまくディスコミュニケーションへのもどかしさが塗り重ねられた抽象絵画のようでもあります。大国アメリカの人種や歴史、アイデンティティへの問いに、言葉とイメージをめぐる問いが重なります。
《ストレンジャー #67》
2012
© Glenn Ligon
photo: Ron Amstutz
島袋道浩 Shimabuku(1969- )
兵庫県生まれ、ベルリン在住。島袋道浩は、世界を舞台に地域固有の文化や人々との出会いとコミュニケーションをプロジェクトとして実践し、その中から写真、映像、インスタレーションなどの作品を制作しています。本作は、ドイツ人の学生が、日本語の歌を歌詞の意味のわからないまま歌い続けるユーモラスな映像作品です。「わけのわからないものをどうやってひきうけるか?」は、島袋自身の活動のテーマであるばかりでなく、現代における美術との向き合い方、あるいはコミュニケーションに悩み、難しさを感じる私たちすべてへの問いかけでもあるでしょう。
《わけのわからないものをどうやってひきうけるか?》
2006/2008
© Shimabuku, Courtesy the artist, Berlin
photo: Shimabuku*6/7[土]、アーティスト・トーク開催決定
(詳細はこちらをご覧ください)
ヤン・ヴォー Danh Vo(1975- )
バリア=ブンタウ省(ベトナム)生まれ、メキシコシティ在住。ヤン・ヴォーは、植民地主義の爪あとやベトナムのボートピープルという自らの出自をラディカルに投影した作品によって注目を集めています。一連の出品作は、ベトナム戦争の政策決定をしたケネディ米大統領らの遺品や、和平交渉会場のシャンデリアなどをオークションなどを通じて入手し、そのまま、あるいは解体して提示したものです。ヴォーが扱う歴史の断片は、政治や文化的アイデンティティといった人類全体の問題を呼びおこし、壮大なスケールの作品へと変貌します。
《ロット20:ケネディ政権の閣議室の椅子2脚》(関連図版)
photo: Danh Vo