絵画の在りかを探す24人のペインターたち
21世紀になってアートはとても身近なものになりました。とくに絵画は、「前衛」と呼ばれたような20世紀の難解なものから、誰にも親しみやすいようなものへと大きく変質したといえるでしょう。とはいえ、キャンバスに絵具で何かを描けば、それが即「絵画」であり、「アート」になるのでしょうか?キャンバスを切り裂く、モノクロームで描く、絵具をたらす、マンガなどのイメージを使うなど、20世紀に行われたさまざまな実験的試みによって、絵画は表現として果てしなく拡大してしまいました。まるで絵画と見紛うかのようなイメージがいたる所に氾濫する現代社会では、逆に、「絵画」でないものを見つけることの方が困難といえるかも知れません。それぞれの方法論や絵画観はさまざまですが、今回取り上げる24人は、そうした困難な時代に「絵画」の在りかを真剣に探し求めるペインターたちといえるでしょう。
青木豊 AOKI Yutaka
1985年熊本県生まれ/2010年東京造形大学大学院修了
平面(二次元)と立体(三次元)を自由に行き来しながら、ヴァーチャルな情報が氾濫する現代社会に絵画の回復を追求します。絵画の物質性に注目して、世界を認識する糸口を模索しています。
《untitled》
アクリル絵具、スプレー、キャンバス、パネル 162.0×162.0cm
2013年 作家蔵
厚地朋子 ATSUCHI Tomoko
1984年京都府生まれ/2010年京都市立芸術大学大学院修了
歪んだ遠近法のなかに工事のフェンスが大きく描かれた田園風景、舞台の書割を思わせる室内風景などに、西洋文化に対する日本人の憧憬とコンプレックスをユーモラスに表現しています。
《コメディー》
油彩、キャンバス 210.0×270.0cm
2013年 作家蔵
© the artist Courtesy of taïmatz
千葉正也 CHIBA Masaya
1980年神奈川県生まれ/2005年多摩美術大学卒業
混沌とした設定の近景にさまざまなモノや生き物が登場し、異質な空間の共存が奇妙な違和感を生み出しています。体感的な側面を重視して、新しい絵画の可能性を開拓しようとしています。
《犬のように歩き回った偉大な男》
油彩、キャンバス 145.0×100.0cm
2009年 白木聡氏・鎌田道世氏蔵
© the artist Courtesy of ShugoArts
榎本耕一 ENOMOTO Koichi
1977年大阪府生まれ/2003年金沢美術工芸大学卒業
無数のイメージが埋め尽くす画面は、この世界を「イメージの漂流する空間」と捉えた結果です。自ら考案したキャラクターが加わり、グローバリズムとローカリズムが同居します。
回転式処刑台 リジョイスの争鳴》
油彩、キャンバス 227.3×181.8cm
2011年 Collection of Masamichi Katayama / Wonderwall®
© the artist Courtesy of TARO NASU
福永大介 FUKUNAGA Daisuke
1981年東京都生まれ/2004年多摩美術大学卒業
使い古されたモップ、打ち捨てられたタイヤなど、不穏な不気味さや虚無的な終末感がにじむ情景のなかに、強固な人間性や存在の本質を探っています。
《Wheels》
油彩、キャンバス 218.2×291.0cm
2014年 作家蔵
© the artist courtesy of Tomio Koyama Gallery
風能奈々 FUNO Nana
1983年静岡県生まれ/2008年京都市立芸術大学大学院修了
染料、アクリル絵具、油彩など多彩な素材をもちいたマチエールやテクスチャーが特徴です。動植物などの文様風のモティーフが繊細かつ緻密に、画面全体に密度をもって描かれます。
《片目は鳥の目 片目は虫の眼》
アクリル絵具、キャンバス 227.5×324.0cm
2013年 作家蔵
© the artist Courtesy of Tomio Koyama Gallery
今井俊介 IMAI Shunsuke
1978年福井県生まれ/2004年武蔵野美術大学大学院修了
絵画の基本的要素である色彩、形態、面を探求する制作を行っています。錯視を生むという点でオプティカル・アートに似ていますが、描かれたものの意味や内容を強く想起させます。
《untitled》
アクリル絵具、キャンバス 51.5×45.0cm
2013年 白木聡氏・鎌田道世氏蔵
© the artist Courtesy of HAGIWARA PROJECTS
岩永忠すけ IWANAGA Tadasuke
1979年佐賀県生まれ/2008年東京藝術大学大学院博士後期課程修了
色彩によってのみ感受されうる微細な情報が、私たちの感覚の開放に少なからぬ影響を与えると考えています。透明感のある色彩の集積のうちに、作家の生の軌跡が浮かび上がっています。
《羽毛》
油彩、キャンバス 99.8×72.6×3.0cm
2013年 作家蔵
© the artist Courtesy of ShugoArts
鹿野震一郎 KANO Shinichiro
1982年東京都生まれ/2007年名古屋造形芸術大学卒業
イメージの喚起力やイリュージョニズムを積極的に活用して、絵画とそれに向き合う鑑賞者の関係性への言及する作品です。インスタレーションには旧作と新作が含まれています。
《鑑賞》
油彩、キャンバス 91.0×72.7cm
2013年 作家蔵
© the artist Courtesy of ShugoArts
小西紀行 KONISHI Toshiyuki
1980年広島県生まれ/2007年武蔵野美術大学大学院修了
すべて自分の家族の写真をもとに、一筆書きを思わせる大胆で、即興性の強いストロークで描いた人物画です。普遍的な人間関係や、時間、場所、記憶などが表現されています。
《untitled》
油彩、キャンバス 145.5×112.0cm
2012年 作家蔵
© the artist Courtesy of ARATANIURANO
工藤麻紀子 KUDO Makiko
1978年青森県生まれ/2002年女子美術大学卒業
女の子、小動物、草花など、一見少女性が強く感じられる心象風景ですが、堅実で卓越した描写力と表現力を示しています。牧歌的な情景に現代日本の親密な感性が豊かに表現されています。
《いぬとねこ》
油彩、キャンバス 130.0×162.0cm
2011年 作家蔵
© the artist Courtesy of Tomio Koyama Gallery
政田武史 MASADA Takeshi
1977年大阪府生まれ/2003年京都市立芸術大学大学院修了
ハリウッド映画やテレビ番組のワンシーンなど、既成のイメージを巧みに利用して、既視感を刺激しつつ、その意識や記憶に働きかけます。パッチワークのように連続するタッチが特徴です。
《HAITOKUKANのマーチ・覗き見OK、カモン》
油彩、キャンバス 117.0×91.0cm
2012年 菅野直樹氏蔵
© the artist Courtesy of Wako Works of Art
松原壮志朗 MATSUBARA Soshiro
1980年北海道生まれ/2005年多摩美術大学卒業
プリントのように彩色を施したバッグも絵画表現と見做した作品です。絵画的なイメージが氾濫する時代を肯定的に捉えて、柔軟な感性によって絵画の始原のありようを探り当てようとしています。
《untitled (grid tote bag)》
アクリル絵具、キャンバス地 80.0×60.0cm
2013年 作家蔵 【参考図版】
*実際の出品作品とは異なります。
南川史門 MINAMIKAWA Shimon
1972年東京都生まれ/1998年Bゼミスクーリングシステム修了
ストライプ、ドット(水玉)、カラーフィールド、パターンなど、地や背景がきわめて重要な構成要素となっています。都市カルチャーと絵画表現の関係への着目が示されています。
《4つの絵画と自立するための脚》
水性塗料、ボード 197.0×463.7cm
2013年 作家蔵
© the artist Courtesy of MISAKO & ROSEN
持塚三樹 MOCHIZUKA Miki
1984年静岡県生まれ/1999年常葉学園短期大学卒業
実在するものを描くのではなく、みたことがないイメージや記憶を頼りに、脳裏に浮かぶ心象風景をつむぐかのような制作方法から出発しました。かたちのない光を絵画を通して形象化する試みに挑戦し、具体的な形態や比喩表現などをもちいることなく、抽象的な筆遣いのみの集積からイメージを生成させることに成功しています。
《light sleep》
油彩、キャンバス 100.0×80.5cm
2012年 ヴァンジ彫刻庭園美術館蔵
© the artist Courtesy of MISAKO & ROSEN
中園孔二 NAKAZONO Koji
1989年神奈川県生まれ/2012年東京藝術大学卒業
確かなテクニックに裏打ちされ、絵画表現に対する全幅の信頼と愛着を臆することなくみせながら、「自分の見てみたかった景色」を果敢にキャンバスに描き出しています。
《無題》
油彩、キャンバス 53.0×41.0cm
2014年 作家蔵
© the artist Courtesy of Tomio Koyama Gallery
大野智史 OHNO Satoshi
1980年岐阜県生まれ/2004年東京造形大学卒業
シンボルをもちいて、自然と人工の対峙と融合、時間などを探求します。プリズムを描く作品は、まばゆい光を放つ軽薄で虚栄にみちた現代社会の象徴で、人工の美の極限を表現しています。
《PRISM Bye Bye Sunset》
油彩、アクリル絵具、キャンバス、パネル 300.5×728.5cm
2013年 高橋コレクション蔵
© the artist Courtesy of Tomio Koyama Gallery
小左誠一郎 OSA Seiichiro
1985年静岡県生まれ/2011年東京藝術大学大学院修了
薄く溶いた絵具を塗った画面に、五芒星を描いています。縦、横、斜めの3つの基本線と背景色のみによる抽象作品ですが、絵具の塗りムラやかすれにより、ぬくもりや情感が感じられます。
《無題》
油彩、キャンバス 227.3×181.8cm
2014年 作家蔵
五月女哲平 SOUTOME Teppei
1980年栃木県生まれ/2004年東京造形大学卒業
薄く溶いた絵具を何層も塗り重ねる作業を反復して制作します。輪郭線を使わず、自由な配色による色面のみで描き、色彩と形態、イメージと知覚、絵画と身体感覚などがテーマになっています。
《Saturn》
アクリル絵具、キャンバス 116.5×116.5cm
2011年 個人蔵
© the artist Courtesy of Aoyama Meguro
髙木大地 TAKAGI Daichi
1982年岐阜県生まれ/2010年多摩美術大学大学院修了
黒の背景に陰影やハイライトを施されたポットやビンなどを描く静物画、矩形や不定形の枠を描く作品など、形態表現を切り口に、地と形象、絵画の枠組みや空間に対する探求を行っています。
《window》
油彩、キャンバス 65.1×53.0cm
2013年 作家蔵
高橋大輔 TAKAHASHI Daisuke
1980年埼玉県生まれ/2005年東京造形大学卒業
絵画がイメージである以前に、物質であるということに気づかせてくれます。外見とはうらはらに、洋の東西の絵画作品が参照され、絵画もしくは絵具そのものがモティーフになっています。
《無題(マドンナ)》
油彩、ボード 25.0×26.0cm
2012-13年 ニガウリ・コレクション蔵
© the artist Courtesy of HARMAS GALLERY
竹﨑和征 TAKEZAKI Kazuyuki
1976年高知県生まれ/1999年高知大学卒業
「風景の記憶」をテーマに現代の風景画の可能性を追求しています。描くことのみで成立しない点も特徴で、コラージュとインスタレーションをもちいて、移動や時間の概念が表現されています。
《67 V》
ペンキを塗った古い雨戸、アクリル絵具、古い窓枠、キャンバス、油彩 199.0×170.5cm
2013年 作家蔵
© the artist Courtesy of MISAKO & ROSEN
八重樫ゆい YAEGASHI Yui
1985年千葉県生まれ/2011年東京造形大学大学院修了
布生地の柄やパターンなど、絵画以外の抽象的なヴィジュアル・イメージを、絵画に置き換えています。制作は日課のようにたんたんと進められ、そのこだわりから崇高性すら感じられます。
《Untitled》
油彩、キャンバス
作家蔵
© the artist Courtesy of MISAKO & ROSEN
横野明日香 YOKONO Asuka
1987年愛知県生まれ/2013年愛知県立芸術大学大学院修了
限られた色彩とストロークで山とダムを描いています。縦長や横長の大画面に展開されたストロークは、身体性を強く感じさせ、絵肌と山肌が同化した不思議な世界を表現します。
《ダム》
油彩、キャンバス 259.0×194.0cm
2010年 作家蔵