バグダッド生まれ・ロンドン在住のザハ・ハディド(1950-)は、現代の建築界を牽引する巨匠であり、世界を席巻する建築家です。1980年に自身の事務所を設立、83年には〈ザ・ピーク〉の国際コンペティションで勝利し、そのコンセプトとともにザハの名は一躍世界に知られることになりました。しかしこのプロジェクトをはじめ、ザハの設計は当時の施工技術や建築思考に収まらない前衛的な内容だったため、独立後10年以上にわたって実際に建てられることはなく、長らく「アンビルトの女王」(アンビルト=建設されない)の異名を与えられていました。
1993年〈ヴィトラ社消防所〉が初めての実現プロジェクトとなってからは大規模なコンペティションで次々に勝利を重ね、かつ実際に建てられるようになりました。そしてこのたび〈新国立競技場〉国際デザイン・コンクール最優秀賞選出により、日本でも実作の建設が決定しました。
日本初の大規模個展となる本展では、ザハ・ハディドのこれまでの作品と現在の仕事を紹介し、その思想を総合的にご覧いただきます。アンビルトの時代に膨大なリサーチにもとづいて描かれたドローイングから、世界各地で建てられるようになった実作の設計、スケールを横断する例であるプロダクト・デザインを含め、展示空間全体を使ったダイナミックなインスタレーションで紹介します。
東京オペラシティアートギャラリーでは〈新国立競技場〉コンクール募集要項が発表されて以来その動向に注目し、その過程でザハ・ハディドの展覧会を計画してきました。その後、競技場をめぐってさまざまな議論が展開されていますが、設計者に関する情報が限られていると感じています。本展が、初めてザハの名を目にした方から初期よりご存知の方まで、鑑賞者それぞれの視点でザハの建築を体験し、その思想に触れる機会となることを願っています。