高橋コレクション展 ミラー・ニューロン

展覧会についてExhibition

「高橋コレクション」はこれまでに、「ネオテニージャパン」や「マインドフルネス!」など、日本のアートと文化をトータルで捉えるキーワードをタイトルに提案し、現代アートに馴染みのない人にも、作品の魅力を伝えてきました。今回新たにタイトルに選ばれた「ミラー・ニューロン」とは、他者の行動を見て「鏡」のように自分も同じ行動をしているかのように反応する神経細胞を意味し、それは他者との共感や模倣行動をつかさどるとも考えられています。本展においては、日本の現代アートに広く見られる「なぞらえ」の作法が、「模倣」「引用」などを重要な手段とする現代アートの世界的潮流だけでなく、「見立て」や「やつし」といった伝統的な日本の美意識とも通底していることを意識させるキーワードとなります。

1990年以降の日本の現代アートのイメージが強い「高橋コレクション」ですが、収集の契機となった草間彌生はもちろん、60年代末に登場して現代アートの分水嶺として重要な「もの派」の作家などベテランの作品も紹介し、より広い視野から現代アートを考える機会とします。また内外の大規模プロジェクトなどで快進撃をつづける名和晃平の最新作で高橋氏のために制作された《PixCell-Lion》を初公開します。「アートの力で日本を元気にしたい」という高橋氏の願いが込められたコレクションを通して、現代アートの世界に触れ、その楽しさと魅力を発見してください。

本展によせて
コレクター・精神科医 高橋龍太郎

ミラーニューロンはイタリア、パルマ大学のジャコモ・リゾラッティによって、1996年発見された神経細胞である。実験者がエサを拾い上げたときに、それを見ていただけのマカクザルが、エサを取るときと同じ脳の部位が活動したことに由来する。このように他者の行動を自分もやったかのように映すニューロンは、人間にも存在することが確かめられている。人間はこのミラーニューロンによってもたらされる模倣行動によって、他者の行動を理解し共感する。人間の言語をこのミラーニューロンによって獲得されたものとする学説もある。
しかし人間にとって最大の模倣は自然への模倣だろう。アリストテレスは、芸術は自然を模倣するとして、模倣(ミメーシス)を人間の本質と高く評価した。1980年代以降現代アートは模倣と引用によるシミュレーショニズムの影響なくしては語れない。しかしシミュレーションといえば、日本には本歌取り、見立て、やつし等、千年の歴史がある。とするなら日本の現代アートシーンは、正面に西欧のアートミラーがあり、背後に千年の伝統ミラーを見据える合わせ鏡の只中にあることになる。
それは世界のアートシーンのなかの稀有な痙攣する美になるのか。はたまた無限に映し返される煉獄に過ぎないのか。

森村泰昌 MORIMURA Yasumasa
《第三のモナ・リザ》
1998 カラー写真プリント 77.0×54.5 cm (framed: 99.5×77.0 cm)
© Morimura Yasumasa
Courtesy of ShugoArts

加藤美佳 KATO Mika
《パンジーズ》
2001 油彩、キャンバス
© KATO Mika
Courtesy of Tomio Koyama Gallery

菅木志雄 SUGA Kishio
《補われた素材》
1986 木、パテ 80.9×93.0 cm
Photo:KIOKU Keizo
© Kishio Suga

名和晃平 NAWA Kohei
《PixCell-Lion》
2015 ミクストメディア 117.2×65.5×239.1 cm
Photo:表恒匡|SANDWICH

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