イントロダクション
Introduction
谷川俊太郎は1952年に詩集『二十億光年の孤独』で鮮烈なデビューを果たしました。感傷や情念とは距離をおく軽やかな作風は、戦後の詩壇に新風をもたらします。
「鉄腕アトム」の主題歌、『マザー・グースのうた』や『ピーナッツ』の翻訳、市川崑監督による映画「東京オリンピック」の脚本、武満徹ら日本を代表する音楽家との協働などでも知られる谷川は、86歳の現在も、わかりやすく、読み手一人一人の心に届くみずみずしい言葉によって多くの人を魅了し続けています。
一方その仕事の幅広さ、膨大さゆえに、谷川の「人」と「作品」の全体像をとらえるのは容易ではありません。本展では谷川の詩「自己紹介」(2007)を起点に、谷川の暮らしや仕事を紹介し、今現在の詩人像を立ち上がらせます。実生活の喜びやいたみから詩を紡ぎ出してきた谷川は、60年以上にわたるその仕事のなかで詩と言葉の可能性を広げてきました。
本展では谷川の幅広い創作活動のほか、少年時代にまつわる資料や交友関係、親しんできた音楽、コレクション等を紹介することで詩人の暮らしに焦点をあてます。また本展のために書かれた新作の詩や、音楽家 小山田圭吾(コーネリアス)・インターフェイスデザイナー中村勇吾とのコラボレーションを通じて、現在進行形の谷川の活動をご覧いただきます。本展は、谷川俊太郎の言葉によって私たち一人ひとりが自身と出会う、またとない機会となるでしょう。
photo: 深堀瑞穂