展覧会についてExhibition
2016年ニューヨークのノグチ美術館での展覧会のために制作された「トム・サックス ティーセレモニー」は、2016年から2017年にかけて「Space Program: Europa」(2016-17)の一環としてサンフランシスコのイエルバ・ブエナ芸術センター、その後ナッシャー彫刻センター(2017-18)に巡回しました。日本の伝統的な茶の湯の世界とそれを取り巻く様々な儀礼や形式を独自の解釈で再構築した作品を制作するために、2012年から本格的に茶道を学び始めて以来、日本国内での発表を念頭に置いてきたサックス。東京オペラシティアートギャラリーでの展覧会は、サックス自身が切望していた、作品の起源である日本での初個展となります。本展の作品は体感型の空間として、庭(「内露地」「外露地」)、手作りの合板の茶室、ボーイング747機の設備をより機能的にしたトイレユニット(「雪隠」)、鯉が泳ぐ美しい佇まいの池、そして様々な門によって構成されます。
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Bonsai, 2016 / Stupa, 2013.
Copyright Tom Sachs. Courtesy of Tomio Koyama Gallery.
「古い伝統の真の発展を目指す」というイサム・ノグチの姿勢に着想を得て、それを実践すべく、サックスは茶碗や釜、柄杓、掛軸、花入れをはじめ、電動で動く茶筅(ちゃせん)や本来スポーツで使用されるショットクロック*1、電子式の火鉢などの、工業用素材や日用品といった身近な物で茶道具を自作し、独自の世界を創り出しました。会場に展示されるスペアパーツやスクラップ素材から制作した、明治工芸の「自在 *2」を連想させるザリガニの形をした銅製の置物や、500個を超える「不完全な美」を体現した手製の茶碗からも、サックスの茶道へのこだわりと深い興味がうかがえます。作品そのものに命を吹き込み、茶の文化の発展のための貢献を有意義なものとさせるのは、その根底にある遊び心だけでなく、作家自身の茶道という伝統的な文化に対する絶え間ないリサーチと制作への献身的な姿勢といえるでしょう。
- *1 カウントダウンするストップウォッチ
- *2 自由自在に部位を動かすことができる置物。複数の金属パーツや蝶番などを駆使して複雑な動きが再現できる。
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Chasen, 2015.
Copyright Tom Sachs. Image Credit Genevieve Hanson.
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Ishidoro, 2015.
Copyright Tom Sachs. Image Credit Genevieve Hanson.
ノグチ美術館シニア・キュレーターのダーキン・ハート氏は次のように述べています。「伝統的な茶道は長年かけて洗練されて成熟した状態になり、やがて体系化されて、その発祥以来連綿と続く様々な伝統文化と同様、一旦完成しました。従来は16世紀の流行だったものが本格的な文化へと発展を見せたのは、それが一般的な経験の中に普遍的な価値観を見出したからです。茶道はもてなしの心を慈しみ、儀礼を通じて地域の発展やコミュニティの強化を促し、「地」「空」「火」「水」といった基本的な要素を取り入れながら、心身の世界との一体感や親密なつながりを見出し、自身を静かに見つめ直す機会を与えるものです。トム・サックスによる茶道はその無限の空間を探求することによって、新たな世代や観客層がこれらの価値観やそれを支える文化を体感できる、豊かで心動かされるプロジェクトなのです。」
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Shoburo, 2012.
Copyright Tom Sachs. Image Credit Genevieve Hanson.
展覧会では上記のインスタレーションに加え、今までにサックスが制作してきた様々な茶道具を紹介するとともに、茶の湯に取り組むきっかけとなった「Space Program: MARS」展(2012年)からの発展や歩みを振り返ります。また、今回上映される映像作品《ティーセレモニー》は、日々の暮らしや営みから派生した複雑なサブカルチャーに対するサックスの20年にわたる模索を反映したもので、本展のために特別に制作されたジオデシック・ドーム状のシアターで上映されます。
東京オペラシティアートギャラリーの会期初日には、サックス本人によるティーセレモニーが2回行われます。この時は特別に茶室の壁が取り払われ、展示室で公開される茶事をご覧いただくことができます。また、2016年の展覧会に合わせて、ニューヨークのノグチ美術館、ならびにイエルバ・ブエナ芸術センターとナッシャー彫刻センターの協力のもと、アーティストブック『ティーセレモニー・マニュアル』が制作されています。サックスの茶の湯に対する様々なリサーチや実践を280ページにわたって紹介しています。