展覧会について
Introduction
体験を共有するアートの力!
加藤翼(1984- )は、複数の参加者による協働作業が生み出す行為を映像、写真などの作品として発表しつづけています。数多くのリサーチやプロジェクトをグローバルに展開し、高く評価される日本人現代美術家の一人です。
《The Lighthouses – 11.3 PROJECT》(2011)
そこに集まった人々が知恵を出し合い、ロープと人力だけで巨大な構造体を引き倒したり、引き起こす〈Pull and Raise〉シリーズは、加藤翼の代表作の一つです。3.11を逆にした11.3(文化の日)に行われた《The Lighthouses – 11.3 PROJECT》は、東日本大震災後の福島県いわき市に集まった約500人の人々が、津波で壊された家々の瓦礫によって、灯台のイメージに組みあげられた構造体をロープで引き起こすもので、このプロジェクトの構想が契機になり、震災からの復興を目指す地区の祭事の開催へと発展しました。
加藤の作品は、自然災害、都市開発、環境破壊などで地域のコミュニティが解体の危機に瀕するなか、人々が自発的に参画し、一体となって何かを実践することの意義を提示します。新型コロナウイルス感染症のパンデミックという今日の状況下において、また、国家や国民の二極化が世界的に危惧されるなか、加藤の作品は、分断や対立を超えた協働作業や連帯による可能性をあらためて気づかせてくれるでしょう。
代表作、話題作を網羅したスリリングな鑑賞体験
このほか、《Listen to the Same Wall》(2015)、《Underground Orchestra》(2017)、《Woodstock 2017》(2017)、《2679》(2019)、《Superstring Secrets: Tokyo》(2020)など、代表作、話題作を網羅する、2007年以降の映像作品26点および写真、模型などで構成し、加藤翼のこれまでの歩みと全貌をご紹介します。
日本、アメリカ、メキシコ、マレーシア、香港など、世界各地で実践されてきたさまざまなプロジェクトが、ダイナミックなインスタレーションや臨場感あふれるサウンドの交錯によって、私たちの想像力を強く刺激して、時空を超えたスリリングな鑑賞体験をもたらしてくれることでしょう。
コロナ後の共生社会を目指して
作家にとって美術館での初個展となる本展は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催期間とも重なります。ワクチン接種や供給の問題など、パンデミックが露呈したさまざまな格差や分断のさなか、本来は国民の連帯や一体感を醸成するはずのオリンピック・パラリンピックについても、その開催をめぐって賛否が大きく分かれました。異なる意見や立場をどのように捉え、私たちは前に進むべきなのか。本展が、こうした問題解決のためのささやかなヒントになることを願っています。