見どころ
Highlights

初期作品:
文字の約束から離れ、自由な「かたち」の創出に向かったプロセスを検証

書家として出発した桃紅は、文字に自分なりの「宇宙」を感じ取ることで、空間と時間、運動を構築する独自の能力を獲得していきました。徹底して文字と向き合うことで、逆に文字の制約から離れ、自由な冒険に乗り出すことができたのです。

墨
《墨》1955
鍋屋バイテック会社蔵
習作
《習作》1954
鍋屋バイテック会社蔵

抽象表現の確立:
強く、骨太な造形へ

1956-58年の渡米を経て、桃紅は、張りのある太い線や面の構成による純粋な抽象表現に到達します。桃紅ならではの、強く、骨太な造形が、ここで確立されるのです。

明皎
《明皎》1960年代
鍋屋バイテック会社蔵
遠つ代
《遠つ代》1964年頃
岐阜県美術館蔵

表現の深化:
連作をとおして

抽象表現は、自由なようでいて、内的な制約はかえって強いと桃紅はのべています。さもなくば抽象は、単なる無秩序か空疎な形式に堕することに桃紅は気づいていたのです。桃紅の制作が、造形上のひとつのモチーフを徹底して探求する連作のかたちを取ったのも、そうした厳しい意識の表れかもしれません。1970年代以降の、代表的な連作から重要作を紹介します。

祭り(後)
《祭り(後)》1986
岐阜県美術館蔵
私記
《私記》1988
公益財団法人岐阜現代美術財団蔵

空間との対話:
諸芸術の総合と建築関係のしごと

1950〜60年代は、芸術のさまざまなジャンルを総合して、人間が生きる条件や環境を作り替えていく試みが盛んに行われました。そうしたなか、桃紅は建築とのコラボレーションに積極的に取り組み、壁書、壁画、襖絵、レリーフ、緞帳などを手掛けていきます。

惜墨1
《惜墨1》1991
岐阜県美術館蔵
惜墨2
《惜墨2》1991
岐阜県美術館蔵
惜墨3
《惜墨3》1991
岐阜県美術館蔵
惜墨4
《惜墨4》1991
岐阜県美術館蔵

晩年の到達点:
感性的体験の豊かさへ

桃紅は、身近な自然や日々のくらしの森羅万象に感覚を研ぎ澄まして向き合い、それを制作の糧として、晩年にいたるまで、充実した制作をつづけました。桃紅は、自らの作品を「こころのかたち」と呼ぶのを好みましたが、ここにいう「こころ」とは、たんに自分の「気持ち」というよりも、さまざまな事象によって自身の内にもたらされる感覚の総体、身体や五官をまきこむ感覚の総体、その豊かさを指しているように思われます。桃紅の作品には、人間の感性的な体験のあらゆる局面が、凝縮して表現されているのです。

道
《道》2016
ザ・トルーマン コレクション蔵