展示のキーワード
Keyword for the exhibition
今津の作品には、さまざまなメディアから採取した画像がモチーフとして採用されます。特にインドネシアに移住した後は、その土地で経験した様々な事柄、インドネシアの歴史や神話、都市開発や環境問題に関するイメージが画面に配置されています。ここでは、今津の作品を読み解くいくつかのキーワードを紹介します。
① 神話「ハイヌウェレ」
インドネシア・セラム島の神話。ハイヌウェレとは、ココナッツから生まれ、自分の排泄物から異国の宝物を生み出す力を持つという女性の名前です。その神秘的な力を恐れた男たちによって生き埋めにされてしまいますが、彼女の遺体を切断し土地に埋めると、そこからさまざまな芋が育ち、島の人々を支えたといわれています。今津はこの神話を、フェミニズムや植民地史などさまざまな角度から読み解き、さらに自身の出産といった個人的な体験と結びつけます。
② 開発と環境汚染
インドネシアで生活する今津にとって、先進国により繰り返される資源の収奪や、その結果生じている地球規模での環境問題は、日々リアリティを持って捉えられるものです。今津は「世界でもっとも汚染された川」と呼ばれるチタルム川や、シドアルジョの天然ガスの採掘現場でおこった泥火山の噴出とそこで暮らす人々の生活など、現地を取材した作品を制作しています。
③ 日本とインドネシア
インドネシアは、近代にはオランダの植民地とされ、また第二次世界大戦時には日本の占領下におかれました。今津は、さまざまな歴史資料のイメージを画面上に引用することで、現在生活するインドネシアと自身のルーツである日本との関係を批評的に思考し、自らの立ち位置を確かめるように絵画を制作しています。
④ 平面から空間へ
近年、今津の創作は絵画に留まらず、3Dプリンターによる巨大な立体作品や、インスタレーションなど空間へと展開しています。本展覧会でも、バンドンで行われていたというマラリアの特効薬であるキナの栽培をめぐる、新作インスタレーションが展示されるほか、会場内には骨格標本や土器などの巨大な彫刻が点在します。会場全体を通して今津の作品世界をお楽しみいただけます。