武満徹作曲賞
2017年度 武満徹作曲賞 ファイナリスト決定(審査員:ハインツ・ホリガー)
2016.12.02
1997年に始まったオーケストラ作品の作曲コンクール「武満徹作曲賞」は、毎年ただ1人の作曲家が審査にあたります。
19回目(2005年と2006年は休止)となる2017年度(2016年9月30日受付締切)は、117曲の応募作から、規定に合致した、36ヶ国115作品が正式に受理されました。そして2016年10月中旬〜11月中旬にかけて2017年度審査員のハインツ・ホリガーによる譜面審査の結果、下記4名がファイナリストに選ばれました。
この4名の作品は2017年5月28日[日]の本選演奏会にて上演され、受賞作が決定されます。
なお、譜面審査に際しては、作曲者名等の情報は伏せ、作品タイトルのみ記載されたスコアを使用しました。
ファイナリスト(エントリー順)
アンナキアーラ・ゲッダ(イタリア) Annachiara Gedda
[作品名]
NOWHERE
NOWHERE for orchestra
1986年6月20日、トリノ生まれ。トリノ音楽院で作曲をジョルジオ・コロンボ・タッカーニに師事し、2015年修士課程を優秀な成績で修了。また、ルイス・バカロフ、アツィオ・コルギ、パオラ・リヴォルシ、トリスタン・ミュライユのマスタークラスを受講した。国内外の国際コンクールで入賞し、アンサンブル10/10(ロイヤル・リヴァプール・フィルのメンバー)、ディヴェルティメント・アンサンブル、アンサンブルTélémaque、アンサンブルTaG、小里明子、ヴァレンティーノ・コルヴィーノなどによって、ハダースフィールド現代音楽祭(イギリス)、ヴェネチア・ビエンナーレ、Gmen音楽祭(フランス)、エキスポ・ミラノ2015のような様々な音楽祭で演奏されている。作品はSconfinarte、Bèrben、Zeddeの各社から出版。
http://www.annachiaragedda.com
ジフア・タン(マレーシア) Zihua Tan
[作品名]
at the still point
at the still point for orchestra
1983年9月25日、コタバル生まれ。カナダに拠点を置き、作品はダルムシュタット夏期現代音楽講習会、ヴィッテン室内現代音楽祭、ロワイヨモン作曲講習会 “Voix nouvelles”、トンヨン市国際音楽祭(韓国)、アカデミー・シュロス・ソリテュード(ドイツ)など、アジア、ヨーロッパ、北米で取り上げられている。また、アンサンブル・モザイク、アンサンブル・ルシェルシュ、アンサンブルSurPlusによって演奏された。トンヨン市国際音楽祭においてゲーテ賞を受賞するなど、複数受賞している。現在はマギル大学のシューリック音楽学校で講師を務めながら博士課程で学んでいる。
http://www.zihuatan.com/
坂田直樹(日本) Naoki Sakata
[作品名]
組み合わされた風景
Paysages entrelacés pour orchestre
1981年8月6日、京都市生まれ。2007年愛知県立芸術大学、2008年パリ・エコール・ノルマル音楽院をそれぞれ首席で卒業。2013年パリ国立高等音楽院にてステファノ・ジェルヴァゾーニのクラスを修了。2014年IRCAMにて研修を受ける。作品は武生国際音楽祭、Festival Musica、ロワイヨモン作曲講習会“Voix nouvelles”など、多数の音楽祭や企画で取り上げられている。桑原賞、SACEM賞、第36回入野賞受賞。2011年、武生作曲賞、日本音楽コンクール作曲部門入選。2010〜2011年、ローム ミュージック ファンデーション奨学生。現在、パリ在住。
https://naokisakata.net/
シュテファン・バイヤー(ドイツ) Stefan Beyer
[作品名]
私はかつて人肉を口にしたことはない
Ich habe nie Menschenfleisch gegessen for orchestra
1981年11月6日、ブラウンシュヴァイク生まれ。ライプツィヒ大学にて歴史学を、ライプツィヒ音楽大学とイェーテボリ音楽大学にて音楽、作曲を学んだ。2011年、ライプツィヒ音楽大学においてクラウス・シュテファン・マーンコプフのもとでドイツ国家演奏家資格を取得。2011〜2013年、同大学で管弦楽法の客員教授を務める。アーティスト・イン・レジデンスとして、2015〜2016年にパリ国際芸術都市に、2016年にヴィーパースドルフ城(ドイツ)に滞在。奨学金や作曲賞も複数受けている。作品はアンサンブル・モデルン、ルクセンブルク・シンフォニエッタ、パブロ・ルス・ブルセタ、ヨハネス・カリツケなどの著名な演奏団体や指揮者によって演奏されている。現在、ベルリン在住。
http://www.stefanbeyer.com/
「2017年度武満徹作曲賞 譜面審査を終えて」 審査員:ハインツ・ホリガー
【総評】
115点の応募作品すべての譜面審査を終えて言えるのは、若い世代の音楽創作の世界について洞察を得ることができたのは私にとって重要かつ有意義な経験であったということです。われわれの時代のすべての創作活動は世界的に相互につながっているわけですが、それゆえの問題点や落とし穴、機会や可能性についても考えさせられました。
応募作品の中には多数の傑出した作品があり、すべての応募者を公平に評価しつつ、そのうち4作品のみを選ぶのは困難をきわめました。
基本的には、私は各作品に内在するその作者固有のメッセージを探しました。すなわちそれは作曲家が独自の創造性を表現したいという内的な衝動から生まれるものです。当然のことながら、この創造性には熟達した作曲技法が伴わなければなりません。昔ながらの言い方をすれば「メチエ」であり、形式に対するすぐれた感覚、正確な耳による精密なコントロール、使用楽器についての充分な知識、オーケストラ書法の熟達が求められます。
以下、最終的に選んだ4作品です。
【本選演奏会選出作品について】(エントリー順)
■ NOWHERE
たいへん表現力のある色彩豊かな作品で、対比に富み、多数の形式的な要素も見られる。柔軟なテンポ、流動的な形式、素材別に分化された和声を持つ。
■ at the still point
本作品では、自らの世界に没頭した、まるで夢のような響きの世界が表される。曲自体はつねに揺れ動いているのに内なる静謐さを保っている点が目を引く。響きは全体を通してきわめて透明である。
■ 組み合わされた風景
きわめて精密に表されたサウンド、オーケストレーションの技法に関する高度な知識、音響の吟味とバランスの的確さといった点ですぐれた作品。ほぼ途切れることないサウンドの流れの中において、多数の形式的な要素や多くの異なる光の効果が見られる。
■ 私はかつて人肉を口にしたことはない
ひじょうに理路整然とした独創的な作品。この曲においては、装飾的なものや耳ざわりの良さ、ヴィルトゥオーゾ性といった副次的な要素は排され、実存的な必然性から生み出された音楽としてきわめて強く語りかける。
2016年11月20日 バーゼルにて
ハインツ・ホリガー
(訳:後藤菜穂子)
◎本選演奏会情報
2017年5月28日[日]15:00
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
コンポージアム2017
「2017年度武満徹作曲賞本選演奏会」
審査員:ハインツ・ホリガー
指揮:カチュン・ウォン
東京フィルハーモニー交響楽団
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