武満徹作曲賞
2021年度 武満徹作曲賞 ファイナリスト決定(審査員:パスカル・デュサパン)
2021.2.9
1997年に始まったオーケストラ作品の作曲コンクール「武満徹作曲賞」は、毎年ただ1人の作曲家が審査にあたります。
23回目(2005年と2006年は休止)となる2021年度(2020年9月30日受付締切)は、95の応募作品から、規定に合致した、32ヶ国(出身国・出身地域)91作品が正式に受理されました。そして2021年度審査員パスカル・デュサパンによる譜面審査の結果、下記4名がファイナリストに選ばれました。
この4名の作品は2021年5月30日[日]の本選演奏会にて上演され、受賞作が決定されます。
なお、譜面審査に際しては、作曲者名等の情報は伏せ、作品タイトルのみ記載されたスコアを使用しました。
ファイナリスト(エントリー順)
ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ(イタリア) Giorgio Francesco Dalla Villa
[作品名]
BREAKING A MIRROR
BREAKING A MIRROR for orchestra
1986年 ミラノ生まれ。作曲をパオロ・リモルディに師事し、2017年ジュゼッペ・ヴェルディ音楽院修士課程を修了。2018年よりフィエーゾレ音楽院の特別コースに在籍し、ファヴィオ・ヴァッキに師事している。
エンニオ・モリコーネが審査員長を務めたミケーレ・ノヴァーロ国際作曲コンクール2018にてファイナリストに選出されマメーリ賞を受賞。2020年中央ヨーロッパ弦楽四重奏団が主催する作曲コンクールにおいて、ペーテル・エトヴェシュ現代音楽財団特別賞を受賞。ミラノ・スカラ座管弦楽団フルート奏者のロマーノ・プッチにより2作品の録音を行った。またアルバ・ローザ・ヴィエトル作曲コンクール2020/2021(アムステルダム)のファイナリストに選出されている。
http://www.giorgiofrancescodallavilla.com/
ヤコブ・グルッフマン(オーストリア) Jakob Gruchmann
[作品名]
TEHOM
TEHOM für großes Orchester
1991年 ザルツブルク生まれ。ザルツブルク・モーツァルテウム大学及びグラーツ国立音楽大学にて、作曲をアレクサンダー・ミュレンバッハ、ゲルト・キュール、ヨハネス・マリア・シュタウトの各氏に、音楽理論をエルンスト・ルートヴィヒ・ライトナー、クリスティアン・ウッツ、フランツ・ツァウンシルムの各氏に師事。2012年ザルツブルク連邦州音楽部門の奨学金を得る。
2014年からグスタフ・マーラー大学(旧:グスタフ・マーラー音楽院)にて教えている。2019年マルセイユで開催された"ARCO"作曲部門において給費生に選出された。2020年ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団による個展で2作品が演奏されるなど、現在までに70作品以上を作曲している。
http://www.jakobgruchmann.com/
根岸宏輔(日本) Kohsuke Negishi
[作品名]
雲隠れにし 夜半の月影
Moonlight Hidden in the Clouds for orchestra
1998年 埼玉県本庄市生まれ。2020年第37回現音作曲新人賞、併せて聴衆賞を受賞。同年、第31回朝日作曲賞(合唱組曲)を受賞。現在、日本大学芸術学部音楽学科作曲・理論コース(作曲)4年次に在籍し、伊藤弘之氏に作曲を師事している。
ミンチャン・カン(韓国) Minchang Kang
[作品名]
影の反響、幻覚…
The echo of shadows, hallucination... for grand orchestra
1988年 韓国ウルサン生まれ。ソウルのハニャン(漢陽)大学校にて作曲を学び、スンマ・クム・ラウデ最優等を得て卒業。2014年学内にて「その年の若い作曲家」に選ばれ、その演奏会で第1位を獲得した。同年ISCM韓国による第42回パン・パシフィック・ミュージック・フェスティバルに参加。
2019年よりストラスブール音楽院の修士課程に在籍し、ダニエル・ダダモに師事している。アンサンブル・イマジネールやタナ四重奏団と共演。またストラスブール音楽祭にて作品が選出され、その作品がフランス・トロワ放送局の演奏会で演奏された。
「2021年度武満徹作曲賞 譜面審査を終えて」 審査員:パスカル・デュサパン
【総評】
私は次のような手順で審査を行った。まず、提出された91点のスコアをそれぞれ数回ずつ検討した。この最初の段階で目を惹いたのは、作曲技術とオーケストラ素材の展開の手法が似過ぎていて、ある文化的な様式によって国籍を類推するのは不可能だということである。この点は、本作曲賞が武満徹に敬意を表するものであり、彼が20世紀の偉大な作曲家のひとりであると同時に、日本と西洋の文化の架け橋であったことを考えると、重要な指摘だと思う。彼自身はそれを超えることを目指し、あらゆる表現の普遍化を呼びかけたが、それでもなお彼の音楽は、他の作曲家の中でもたやすく識別できるものだった。
また、この最初の検討の段階で、多くの同じような効果音が使われていることに気づいた ── たとえば息音、キー・ノイズ、スラップ・タンギング、打楽器的効果音、重音奏法、ハーモニクス・グリッサンドなどである。しかもどれも同じ方法で記譜されているのだ(このことは急速な情報交換の結果として、楽譜の書き方やスタイルのグローバル化をまちがいなく示している)。
しばしば私はオーケストラ書法の体系的な過剰さやリズム上の複雑さ、微分音音程などに驚かされたが、個人的には、これでは作曲家の意図を忠実に実行することは不可能だと思う。楽器の効果の組み合わせがあまりに煩雑で数多く、ほとんど謎めいており、楽譜を単に読んだだけでは、結果的にどんな響きになるのかを聞くことも想像することさえも困難なことがあった。
したがって、私はなるべく演奏者 ── すなわちオーケストラの奏者 ── の視点に立って、記譜された音符の量を解釈するにあたって、どういった集団としての感情を拠り所にできるかを想像しようとした。この最後の点が作品を選ぶにあたっての主たる基準であった。
しかしながら、すべてのスコアが上記に述べたような仕様で書かれていたわけではない。いくつかの作品においては、きわめてヴィルトゥオーゾ的な書法や私がふだん目にする以上の技術上の熟達度が見られ、4つの作品しか選べなかったことが残念である。
こうした結果、形式、素材の扱いと展開、オーケストレーション、空間的配置、垂直性(和声)、水平性(線)、優美さ、話法の点において曲の目指すところが明確に理解できたものを4作品選んだ。
【本選演奏会選出作品について】(エントリー順)
■ BREAKING A MIRROR
この作品では形式の展開がつねに明瞭な方法で示されていて楽しめた。オーケストレーションは風通しがよく透明感があり、各楽器グループの扱いに長けていて、しばしば音色がむき出しになることもある。また圧縮されない豊かな和声も見られる。主題は曖昧ではなく、うまく設計され、とても存在感がある。
■ TEHOM
この曲では作曲者が全力を傾け、純粋なインスピレーションと、意識的にリスクを取ってオーケストラの表現の限界に挑戦している点が好ましいと思った。オーケストラをよく知った上でのきわめてヴィルトゥオーゾ的な書法、力強い真の抒情性、そして主題における一種の美しく激しいラディカリズムが見られる。
■ 雲隠れにし 夜半の月影
形式の流動性が分かりやすく自然な方法で表現されていて楽しめた。音型やフレーズは曲全体を通じて有機的に展開し、巧みにオーケストレーションされ、すべての楽器グループに存在感をもって現れる。楽器のジェスチャーに対するすぐれた感性および敬意が感じられる。
■ 影の反響、幻覚…
この作品における旋律のパターンの設計が気に入った。オーケストラの過剰さはなく、むしろシンプルで美しいジェスチャーがやわらかく活き活きと、つねにコントロールされた形で表現されている。オーケストラの形式はとても優美であり、音色が濁ることもなく、美しい、洗練された和声的な空間が作られる。
パスカル・デュサパン
(訳:後藤菜穂子)
◎本選演奏会情報
2021年5月30日[日]15:00
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
コンポージアム2021
「2021年度武満徹作曲賞本選演奏会」
審査員:パスカル・デュサパン
指揮:阿部加奈子
東京フィルハーモニー交響楽団
お問い合わせ
公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:03-5353-0770(平日 10:00〜18:00)
FAX:03-5353-0771