武満徹作曲賞

審査結果・受賞者の紹介

2024年度

審査員

© James Bellorini
マーク=アンソニー・ターネジ(イギリス) Mark-Anthony Turnage (United Kingdom)

本選演奏会

2024年5月26日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:杉山洋一、東京フィルハーモニー交響楽団
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応募作品数

世界27カ国(出身国・地域)102作品から2023年11月の譜面審査(作曲者名等の情報は伏せ、作品タイトルのみ記載されたスコアを使用)で4作品が選ばれ、本選演奏会で下記のとおり受賞者が決定いたしました。

受賞者

第1位

ジンユー・チェン(香港)
星雲
(賞金75万円)

第2位

ホセ・ルイス・ヴァルディヴィア・アリアス(スペイン)
Al-Zahra ─ オーケストラのための3つの小品
(賞金75万円)

ジョヴァンニ・リグオリ(イタリア)
ヒュプノス ─ 夢の回想
(賞金75万円)

第3位

アレサンドロ・アダモ(イタリア)
括弧
(賞金75万円)

左より、ホセ・ルイス・ヴァルディヴィア・アリアス、ジョヴァンニ・リグオリ、
マーク=アンソニー・ターネジ、ジンユー・チェン、アレサンドロ・アダモの各氏
撮影:池上直哉

審査員:マーク=アンソニー・ターネジ 講評

皆さん、こんばんは。そしてまず具体的にお話しする前に一言。東京オペラシティ文化財団の皆さまが非常に温かく面倒を見てくださいまして、日本に来るのは、東京に来るのは、私は大好きですし本当に素晴らしいところです。それから何と言っても、先日私の作品を演奏してくださった東京都交響楽団の皆さま、そして今日は東京フィルハーモニー交響楽団の皆さまが本当に素晴らしい演奏をしてくださいまして、作曲家としては、この素晴らしい音響のホールで素晴らしい演奏が聴けたことは何にも代えがたいことでございます。
そして私はなんと102からのスコアを全部審査いたしましたが、今までの審査員の方々も本当に大変だっただろうなあと改めて思う次第でございます。今ファイナリストの皆さんを前に、私が常に求めていたのはスコアにおける明瞭さですね。あまり密すぎて何か見えないというのは良くないと考えておりました。そういう意味では、それをクリアした方々です。そして私自身、こういった賞の対象となるような場所に立ったことは過去にはございません(笑)。その私が賞を与えるということに、不思議な違和感と言いますか(笑)、を感じております。ここにいる皆さんに、なんともご同情申し上げたいような気持ちでおります。きっとナーヴァスになっているのだろうなあと思います。そして4人とも優秀でいらしたものですから、その中から1人を選んでいくというのは本当に大変でした。しかし審査員ですから、それはやらねばなりません。

今日のプログラム順にコメントを出したいと思います。

アレサンドロ・アダモ:括弧
とても楽観的でいながらとても楽しい、そんなハッピーなところが私は好きでした。そしてとてもジャズなノリの良さというものと、映画音楽を思わせるようなところ、映像を思わせるところ、そして何と言ってもさっき言った楽観的なその雰囲気といったものがとても好きでした。

ホセ・ルイス・ヴァルディヴィア・アリアス:Al-Zahra ─ オーケストラのための3つの小品
とても遊び心のある作品ですけれども、それからオーケストレーションが素晴らしかった。彼に限らずですね、今回の4人とも非常に素晴らしいオーケストレーション、卓越した手腕を見せてくれました。さっき遊び心と言ったんですけれども、ポップソングが彷彿とされるような、それでいながら決してそちらに流れるのではなくて、非常に賢い、その取り入れ方というのをしていたように私は思います。思わず微笑みました。時々なんていうかニヤッというか苦笑いというか(笑)、そういうことをすることもあったんですけれども、そういった感覚も私自身はすごく好きなんですね。

ジョヴァンニ・リグオリ:ヒュプノス ─ 夢の回想
そして一番暗い作品だったのがこの作品です。ただし、この暗いというのは決して悪口ではなくて、私としては褒め言葉のつもりでございます。イタリア的な、本当にイタリアぽくて、悪夢の世界が描かれたかと思うと、それをまた大変美しく作り上げておりました。そういう意味では、実はこれは最初に読んだ楽譜で、最初に読んだ瞬間に、これはファイナルに残る作品だなと確信した、そしてラヴリー・サウンド(lovely sound)というか、非常に音色の使い方もとてもイタリア的でありながら美しいものがございました。

ジンユー・チェン:星雲
非常に美しく作曲されていると思いました。そして心を打つものがございました。しかしながら、その非常に強い作品というのは、実際にオーケストラで演奏された時にですね、やはりスコアで読み取ってそれなりに読めていることはございますけれども、実際の音楽となった時に、スコアから飛び出して訴えてくる力というのが非常にあると思いました。センチメンタルでありながら決してそこに溺れることがなく、非常に賢くそのセンチメンタルを取り入れているところが良いと思いました。そして非常に心を打つ作品で、そこで使われている和音、和声というのが私はけっこう気になる方なので、そういったものが良かったと思います。それはリハーサルでもコンサートでも聴くことができて、特に最後の数小節の最後のセクションですね、それは非常に素晴らしいものがございました。

こういう(審査講評)を行ったのは初めてなんですけれども(笑)、こんな感じで皆さん宜しいでしょうか(笑)。

第3位はアレサンドロ・アダモさん。2位は2人となります。ホセ・ルイス・ヴァルディヴィア・アリアスさんとジョヴァンニ・リグオリさんです。そして皆さんお分かりでしょう、第1位はジンユー・チェンさんです。

実はですね、作曲というのは私自身が作曲家でございますから、どんなに厳しくて難しいものかというのはよくわかっております。そして皆さんがそうした厳しい道を辿りながら、ましてやですね、今回は委嘱というお金が入る商業的な目的ではなく書いていたというところもまた色々と大変だったと思います。このプロフェッショナルな仕事をして非常に厳しい道を進む4人が、今後何かここで得ていってくれたら私としては嬉しいと思っています。それから指揮者の杉山さんが非常に素晴らしい演奏をしてくれて、それを聴けたこともとても嬉しかったと思います。今日決心するまで色々考えて、考え抜いた結果、賞金は4人均等に分けて75万円ずつにしたいと決めました。

通訳:久野理恵子/文責:東京オペラシティ文化財団

受賞者のプロフィール

第1位
ジンユー・チェン(香港) Jingyu Chen
星雲

1994年、広東省生まれ。英国在住の作曲家。ロイヤル・ノーザン・カレッジ・オブ・ミュージックで学士号、ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックとケンブリッジ大学で修士号を取得し、現在はケンブリッジ大学で博士課程に在籍している。BBCシンガーズ、バーミンガム現代音楽グループ、RCMオーケストラ、RNCMブランニュー・オーケストラ、マンチェスター・コンテンポラリー・ユース・オペラ、アマティス・トリオなどのアンサンブルやアーティストと共演。作品は、ニューミュージック・ノースウエスト・フェスティバル、マンチェスター・サイエンス・フェスティバル、8³ニューミュージック&サイエンスなどのフェスティバルで演奏されている。第3回国際作曲家コンクール「ニューミュージック・ジェネレーション」(2021年)、ホマートン作曲コンクール(2022年)、UK国際音楽コンクール(2023年)などで入賞している。
https://www.jingyuchen.com/

受賞者の言葉
本日は、東京オペラシティ文化財団の皆さま、そして何よりも作曲家のターネジさん、本当にありがとうございました。私にとってこれが本当にすばらしい機会となりましたことを、改めてお伝えいたしたく思います。そしてこのホールにいらっしゃるすべての音楽家の方々は、このコンクールが、コンクール以上のものであることをよくご存じかと思います。私たちの努力、研鑽、情熱、ストレス、無力、すべてがここに結実しているのです。そしてこれらすべてが音楽に包まれたなかで、私は霧、夜明け、葉、雲のような立ちこめるものから、そのような自然すべてから、よくインスピレーションを得ます。そしてそれだけに、武満徹さんの言葉が、私に強く残っているのです。武満さんはこのようにおっしゃいました。「作曲とは、世界に入りこみ、聞こえてくる音の自然な流れに正しい意味を与えてくれるものである」と。世界最高峰ともいえる作曲コンクールである武満徹作曲賞では、世界中の作曲家や、現代音楽愛好家の皆さんがお集まりになります。そしてとりわけ、私たちのような若手作曲家にとって、杉山氏や東京フィルハーモニー交響楽団のようなプロの指揮者やオーケストラに作品を演奏していただける機会を与えていただけるのは嬉しいことです。そしてこれこそが、まさに私たち若手作曲家が必要としているものなのです。そしてターネジさん、改めてこの賞をくださり、本当にありがとうございます。ここに立つことができて大変光栄です。ありがとうございました。
通訳:久野理恵子
第2位
ホセ・ルイス・ヴァルディヴィア・アリアス(スペイン) Jose Luis Valdivia Arias
Al-Zahra ─ オーケストラのための3つの小品

1994年、グラナダ生まれ。2023年タングルウッド・ミュージック・センターのフェロー作曲家、2023/24年スペイン・ミュージック・ユース・レジデント・コンポーザー、2022年欧州文化首都委嘱作曲家。2022年Ink Still Wetのワークショップに参加、2022年第33回SGAE-CNDMヤング・コンポーザー・スペイン賞第1位、カザフ国立芸術大学第3回オーケストラのための国際作曲家コンクール「ニューミュージック・ジェネレーション」第2位。彼の音楽は、ルクセンブルクのユナイテッド・インストゥルメンツ・オブ・ルシリン、オーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団、オランダのドーレン・アンサンブルなどで演奏されている。
https://joseluisvaldiviaarias.com/

受賞者の言葉
まず最初に、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんの卓越したすばらしい演奏、さらにはマエストロ杉山さんの指揮ぶり、本当にすばらしいものがございました。それはリハーサルのときから強く感じ、そして今日の演奏となりました。そしてさらには、東京オペラシティ文化財団の皆さま、そして今日いらしてくださった聴衆の皆さま、最後までお聴きくださって本当にありがとうございます。私は、音楽を始めたのはなんと19歳と、始めたのが遅かったのです。そして今は29歳ですが、作曲を始めたのは23歳のときでした。しかしそのころからもうすでに、武満徹さんは、私にとっては目ざすべき星のひとつであり、そして、このホールに立つことができ、ここにいらっしゃる他の3人の若い作曲家とともにこのコンクールに参加することができるまでになりました。実際に2位を2人で分けることになり、本当に光栄なことと思っております。そして鬼頭理事長、本当にありがとうございました。
通訳:久野理恵子
第2位
ジョヴァンニ・リグオリ(イタリア) Giovanni Liguori
ヒュプノス ─ 夢の回想

1989年、カーヴァ・デ・ティッレーニ生まれ。サレルノ音楽院でクラリネット科、吹奏楽科、作曲科を首席で卒業。作曲をジャンカルロ・トゥラッチョ、トリスタン・ミュライユ、ヘルムート・ラッヘンマンの元で学んだ。彼の作品は、イタリア・リリック・アンサンブル、サレルノ・シンフォニエッタ・ソロイスツ、フィラデルフィアのドレクセル・コンサート・バンドで定期的に演奏され、ドレクセル・コンサート・バンドによって《Iberian Rhapsody》が録音された。また、Ad est dell'equatoreよりCD『Metamorfosi in Fuga』をリリース。イタリアとアメリカの様々なオーケストラや室内楽団で活躍している。現在、ヴィボ・ヴァレンツィア音楽院で室内楽を教える。

受賞者の言葉
いま、私はここに立って非常に興奮しております。と言いますのも、私が夢のなかから作りだしたこの作品が、ここで上演されたことに本当に興奮を覚えるとともに、こういうすばらしい機会を嬉しく思います。そしてこのコンクールのファイナリストに選ばれたということを聞いたときには、このコンクールがいかに重要なものであるか知っていただけに、本当に信じられない気持ちでございました。そして日本に来るのを指折り数え、待ちきれない思いで、大好きな日本に来ることができました。そして、こちらに伺うことで、多くの人々と出会い、そういった人々との出会いから、たいへん多くのことを学ぶことができました。こういった音楽というのは、世界中の人々からの境界をなくして、人々を繋ぐことができるのだということを強く感じました。今回のコンポージアムを実現してくださった鬼頭理事長をはじめ、組織の皆さまに心よりお礼申し上げます。そして、なんといっても審査員を務めてくださいましたターネジさん、私を選んでくださっただけでなくここに立つことができたのは、本当にターネジさんのおかげだと感謝いたしております。さらには指揮者の杉山氏のすばらしい指揮、そして東京フィルハーモニー交響楽団による、センセーショナルともいえるような演奏に、改めてお礼を言いたく思います。そして、今日ここで一緒になりました作曲家仲間の、これからの幸せを願うとともに、私を支えてくれた妻、家族にもお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。
通訳:久野理恵子
第3位
アレサンドロ・アダモ(イタリア) Alessandro Adamo
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1995年、カンポバッソ生まれ。14歳からカンポバッソ音楽院で学び始め、2018年にクラシック打楽器科を、2023年に作曲科を卒業。第9回国際オンライン・ジャン・シベリウス・フェスト作曲コンクール(フィンランド・トゥルク)学生部門第1位、マエストロズ・ヴィジョン・アワーズ国際作曲コンクール(中国・北京)ヤングアーティスト部門第4位、カルロ・サンヴィターレ国際作曲コンクール(イタリア・オルトナ)第3位など、ここ数年、さまざまな作曲コンクールで受賞。2020年から現在まで、カンポバッソのアミーチ・デッラ・ムジカ(イタリア)、パドヴァのアミーチ・デッラ・ムジカ(イタリア)、エヴァン・エリクソン・ミュージック2023・コール・フォー・スコアズ(アメリカ・メンフィス)から、室内アンサンブルと独奏楽器のための作品を委嘱されている。

受賞者の言葉
ここに立つことができましたことを本当に光栄に存じます。そしてまたこの機会を与えてくださった皆さまに心より感謝するとともに、ターネジさんに、本当にここに立ってそして私の音楽を聴くことができる、こんな機会を与えてくださったことに心より感謝申し上げるととともに、それを光栄に存じます。また今日、東京フィルハーモニー交響楽団、そしてマエストロ杉山さんの素晴らしい指揮によって演奏していただけたことを心より御礼申し上げたく思います。私のような若い作曲家にとって、このようにレベルの高いプロの音楽家と仕事ができることは大変嬉しいことです。そしてジョヴァンニさん、ホセ・ルイスさん、ジンユーさん、3人の作曲家とともにこの音楽を聴き合うことができたのはとても嬉しい機会となりました。そして大変な優しさをもって私たちを包んでくださいました東京オペラシティ文化財団の鬼頭理事長をはじめとするスタッフの皆さまには、非常に温かく迎えていただきました。ありがとうございます。今日ここにお越しいただきました聴衆の皆さま、そしてこの東京の街、この機会を私は決して忘れることがないでしょう。最後に私の家族に心からお礼を言いたいと思います。彼らの支えがなかったら私は今ここに立っていなかったことでしょう。ありがとう。
通訳:久野理恵子
ON AIR

本選演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定です。

番組名:NHK-FM「現代の音楽」
放送日:2024年7月21日[日]/7月28日[日] 午前8:10〜9:00
再放送:7月27日[土]/8月3日[土] 午前6:00〜6:50
(2回にわけての放送)
*放送日は変更になる場合があります。

NHKラジオ https://www.nhk.or.jp/radio/
番組ホームページ https://www.nhk.jp/p/rs/6J686W68QL/

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