スイス・バーゼルを拠点にヨーロッパ各地でプロジェクトを展開するディーナー&ディーナー(D&D)は、父マルクス・ディーナー(1918-1999)の事務所を息子ロジェ・ディーナー(1950ー)が引き継ぎ、主宰している設計事務所です。新築・改築を問わず、建築は現存する都市の一部にならなければならないと考えるD&Dの作品は、建築家自身のスタイルを商標登録のように掲げた個性の強い建築とは際立った対照を見せます。周辺環境を丹念に分析しながら設計される建築は、都市になじんで一見匿名的です。それぞれの状況に意図的に埋もれるように建つその建築は、都市の記憶をたぐり、その現在の活動を読み、人びとが建築と都市の関係に新しい意味を発見することに手を貸す存在となるべく、都市に対して内部から微妙なパルス(振動)を発生させています。
声高に変化を主張する建築の対極にある、静かにささやきかけるようなD&Dの建築とその思考の軌跡を知ることは、都市という総体に具体的な価値を見出しにくい日本において、あらためて都市と建築の関係を考える機会となることでしょう。