インタビュー
Interview

前編から続く

《桂離宮 新御殿東面(部分)》 1953, 54年
©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

K:この作品はまるでモンドリアンのようにも見えますね。以前丹下さんの建築を巡る番組に出させていただいたことがあったんです。そのとき丹下さんの建築にもモンドリアンに通じるものが強くあったのを思い出しました。通じるものがありますね。

F:その時代のみなが共有していた意識を、石元さんが具体的な形にして見せてくれたという部分があったと思います。
その後石元さんはいったんシカゴに戻り、3年ほど過ごします。その間に丹下さんが編集・執筆、レイアウトはバウハウス出身のヘルベルト・バイアー、序文はグロピウスという豪華な書籍『KATSURA』ができ上がったんです。
シカゴにいる間石元さんは依頼仕事を一切せず、自身の制作に没頭してまた日本に来るわけです。

再びシカゴに戻った時に撮影された作品の前で。

  • 《シカゴ 街》 1959-61年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

  • 《シカゴ 街》 1959-61年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

K:このときのシカゴの写真は、動きそのものを撮るというか、最初の学生時代の頃の作品とは違った印象がありますね。

F:学生時代の頃の作品と比べると、距離感が強く出て、俯瞰的な視点が増えていると思います。そしてスナップに近い感覚も多く見られますね。当時シカゴでは再開発が進んでいて、都市の変貌も捉えられています。石元さんは写真の「記録」としての役割を大切にしていて、「芸術」は撮るべきものを撮っていれば、あとからついてくると語っていました。

K:動きや広がりが加わっていて、常にカメラを持ち歩いていたということがわかりますね。

F:60年代は日本に戻り、以後は日本に拠点を据えて撮影を続けます。

K:学生運動なども撮っていますね。

展示風景
撮影:山中慎太郎

  • 《学生運動(東大構内)》 1968-69年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

  • 《泥とゴミ》 1960年代
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

F:石元さんの東京写真、かなり面白いんですよ。時代と社会の移り変わり、昭和の移り変わりがよく捉えられています。高度成長、学生運動、そしてバブル…。山手線の駅ごとに東京を撮るシリーズもあります。

K:そうですね、見ていくとだんだん知っている風景が現れてきますね。

F:それから工場やコンビナート、ゴミや公害、自然破壊についても撮っています。これらはあまり紹介されてこなかった作品で、アスファルトにめり込んだ軍手や、ヘドロなどは、東松照明さんの仕事にも通じるところがあります。しかし地面を撮るというのは、桂の石から晩年まで、石元さんの一貫したモチーフでもあるんです。

K:綺麗なものだけではなくて、社会的問題を時々見ていたということがとてもよく分かりますね。環境破壊への目線まであったとは驚きです。

  • 展示風景
    撮影:山中慎太郎

  • 《御陣乗太鼓(輪島)》 1962-64年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

F:「周縁から」では地方の暮らしや民俗芸能を撮った作品群を紹介しています。

K:石元さんがこのような仕事もされているのは意外でした。岡本太郎さんも地方をだいぶ撮影されていますよね。

F:そうですね、いわゆる「周縁」から日本の近代化を考えるということは戦後写真の重要な任務でしたが、石元さんもそれと無縁でなかったことが分かります。

展示風景
撮影:山中慎太郎

F:石元さんは同時代の建築家たちと交流し、その作品を撮り続けたことでも知られます。ここには近代建築を撮った作品が70点ほど集められています。個々の建築家からの依頼で撮影された作品をこれだけまとめて見ていただける機会はいままでなかなかありませんでした。

K:丹下さんから始まり、白井晟一さん、磯崎新さん、黒川紀章さん、内藤廣さん・・・、ほんとうにすごい面々ですね。

  • 《大分県立大分図書館(現・アートプラザ)(磯崎新)》 1966年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

  • 《牧野富太郎記念館(内藤廣)》 1999年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

F:KIKIさんは建築を学ばれたんですよね。

K:はい、美大なので最初は絵画や版画、彫刻、デザインまで、あらゆるジャンルを一通り経験し、それから建築に進みました。一通り経験できたことはとても良かったと思います。

F:専門分野に入る前に、あらゆるジャンルを貫く普遍的な造形の基礎を学ぶという発想は、とてもバウハウス的といえますね。

K:そうですね。石元さんの世界は、私が経験したことや私が受けた教育にも繋がっているんだと思います。

丹下健三による国立競技場の作品を観るKIKIさん

K:ここにある丹下さんの代々木の競技場の写真、空との対比といい、すごいですね。この建物、実は屋根のうえに上がれるんですよ。そしてそのまま地上まで歩いて降りられるんです。かつて撮影の時に実際に歩いたことがあるんです。

F:そうなんですね!それでより一層、この写真も迫ってくるのではないですか?

K:まるでその時の体験が写っているみたいです。

F:建築の形を格好良く撮って、キレキレの写真を作ることは、ある意味で今は誰にでもできてしまうでしょう。でも石元さんの建築写真はそれとちょっと違う。もっと人間の五感、身体全体に響くような説得力がありますね。私たちが建築と向き合ったときの感覚のすべて、それこそ体験そのものが、そこには刻まれているのではないでしょうか。

K:建築の体験、空間や時間の体験ですね。

F:この展覧会はこの後、京都は東寺の曼荼羅図の仏さま千体以上を接写拡大した作品など、まだまだ見どころがあります。ぜひゆっくりとご覧ください。

K:石元さんは、本当に楽しくなる作品や勉強になる作品が多いですね。そして思っていたよりもはるかに多様で、幅広い仕事をされていて、しかも常にそれと分かる石元さんらしさが強く感じられ、とても興味深く拝見できました。

KIKI

  • 東京都出身。モデル。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。
    雑誌をはじめ広告、テレビ出演、映画などで活躍。
    エッセイなどの執筆も手掛け、旅や登山とテーマにしたフォトエッセイ『美しい山を旅して』(平凡社)など多数の著書がある。
    ドイツのカメラブランド、ライカの会報誌『ライカスタイルマガジン』にて撮りおろしの写真とエッセイを担当し、自身の写真展で作品を発表するなどの活動もしている。
    現在、文芸誌『小説幻冬』(幻冬舎)にて書評を連載中。