展示構成
Exhibition
1. 初期から「具体」での飛躍へ:「新素材」ボンドで未知の表現を拓く。
「抽象的」であることを標榜した具体美術協会にあって、抽象的でありながら官能的な暗示や連想を誘う松谷の作風は、きわめてユニークな存在でした。官能性や生命性、時間や運動、目には見えない「力」を、フォルムと物質の両面から語りかけるような表現として成立させること。それが松谷の出発点であり、少しずつかたちを変えながら生涯にわたって探求していくテーマでもあるのです。
2. パリ時代初期:版画での新たな取り組み。空間と時間の探求からハードエッジへ。
1966年パリに渡った松谷は、世界中の作家たちが集うスタンリー・ウィリアム・ヘイターの版画工房「アトリエ17」に入門、やがて助手をつとめるように。自己の制作を根底において導いているフォルム上の重要なモチーフ、すなわち「イメージ」を版画という平面のなかでいかに把握し、空間と時間をはらんだ表現として確立するかを探求し、やがて表現は幾何学的であると同時に有機的なフォルム、そして鮮烈な色彩を特徴とするハードエッジの表現に移行します。
3. 紙と鉛筆から生まれる新たな挑戦:「黒」の世界での新境地。
1970年代後半、松谷は改めて紙と鉛筆という身近な素材を用いて制作行為の始原へと溯行しはじめます。やがて黒のストロークで画面を塗り込め、生命的な時間を胚胎させる表現を確立。ボンドによる有機的な造形にも改めて取り組み、そこに鉛筆の黒を重ねた作品で新境地を拓きます。永遠への射程を秘めた「流れ」のテーマが重要性を増し、以後の松谷はさまざまな作品系列やモチーフを行き来しながら、多様な作品を生み出し続けていきます。
4. 松谷の今:融通無碍の制作と表現レンジの拡大。
近年の松谷は、ひとつの手法や表現にとらわれることなく、その制作はますます自由で大らか、大胆にして密やかな繊細さをたたえて進行しています。日々出会ったモノや感覚に触発されながら、「日記」のように制作する松谷。今なお新鮮な発見と驚きに満ちた作品を自らの身体と五感を働かせて生み出し続けています。
5. スケッチブック、制作日誌、ドローイング:初発のイメージ群が語る制作の裏側。
未公開のスケッチブック、制作日誌、ドローイングなどを積極的に紹介。制作の背後に分け入り、松谷の時期ごとの関心のありかや、多様な表現を根底から支える一貫した関心のありかを、浮かび上がらせます。