洋画家・麻田浩は1931年、京都に生まれました。父・麻田辨自(べんじ)、兄・麻田鷹司とも日本画家という家系のなか、同志社大学経済学部在学中に洋画を学び、1954年23歳で新制作協会展に初入選を果たしました。洋画家として本格的な歩みはじめる1950年代から60年代には、当時隆盛のアンフォルメルの影響から、重厚なマチエールの抽象絵画やシュルレアリスムなど、自己のスタイルを模索しながら、活発に作品を発表。1967年の京展で須田賞を受賞し、翌1968年には新制作協会会員に推挙されます。
1971年に渡仏し、11年間にわたりパリにアトリエを構え、ヨーロッパの古典絵画から決定的ともいえる影響を受け、写実表現にもとづきながら、宗教的な精神性を込めた独自のイメージ世界を開拓してゆきました。帰国後は、京都市立芸術大学教授として後進の指導にあたる一方、その画面に込める深い精神性を一層研ぎ澄ませてゆきました。しかしながら、そのあまりに真摯で、かつ壮大な構想の作品制作を未完に残したまま、1997年、京都のアトリエで自らその命を絶ちました。
没後10年を迎えた昨年、京都国立近代美術館で大規模な回顧展が開催され、あらためて麻田浩の画業の全貌が紹介されました。生前京都府文化賞功労賞を受賞し、京都市文化功労者となるなど、関西ではよく知られ、また、95年のニューヨークでの個展で発表した作品をエルトン・ジョンが購入したというエピソードも有名ですが、東京では作品を収蔵する美術館がほとんどないためか、残念ながら、その画業が十分に知られているとは言えません。本展は、後期の作品を中心に、貴重な未公開資料も加えて、麻田浩という画家が、全身全霊をかけて真摯に追求した絵画世界が何であったかを探ろうとするものです。