武満徹作曲賞
2020年度 武満徹作曲賞 ファイナリスト決定(審査員:トーマス・アデス)
2019.12.04
1997年に始まったオーケストラ作品の作曲コンクール「武満徹作曲賞」は、毎年ただ1人の作曲家が審査にあたります。
22回目(2005年と2006年は休止)となる2020年度(2019年9月30日受付締切)は、98の応募作品から、規定に合致した、32ヶ国(出身国・出身地域)93作品が正式に受理されました。そして2020年度審査員トーマス・アデスによる譜面審査の結果、下記4名がファイナリストに選ばれました。
この4名の作品は2021年1月19日[火]18:30(当初予定の2020年5月31日[日]15:00から変更)の本選演奏会にて演奏され、受賞作が決定されます。
なお、譜面審査に際しては、作曲者名等の情報は伏せ、作品タイトルのみ記載されたスコアを使用しました。
ファイナリスト(エントリー順)
シンヤン・ワン(中国) Xinyang Wang
[作品名]
ボレアス
BORÉAS for orchestra
1989年、中国四川省広元市生まれ。現在はアメリカのピッツバーグを拠点に活動。四川音楽学院で学士号、マンハッタン音楽院で作曲と音楽理論を専攻し修士号を取得。またピッツバーグ大学の同専攻で博士号を取得。
伝統的な中国の芸術や西洋の芸術から、幅広くインスピレーションを得ている。また複数の作曲賞を受賞し、作品は著名な演奏家、アンサンブル、オーケストラによって演奏されている。
フランシスコ・ドミンゲス(スペイン) Francisco Domínguez
[作品名]
MIDIの詩
POÈMES DE MIDI
1993年、カスティーリャ=ラ・マンチャ州アルコレア・デ・カラトラバ生まれ。ムジケーネ音楽院でガブリエル・エルコレカに師事し、学士号を取得。その後、グラーツ音楽大学でベアート・フラーとクラウス・ラングに師事した。またヘルムート・ラッヘンマン、ラモン・ラスカーノ、エクトル・パーラ、レベッカ・サンダースなどの講座やマスタークラスを受講。これまでに数々の名誉ある国際賞を受賞している。2016年にはペーテル・エトヴェシュ財団のアカデミーに参加し、ペーテル・エトヴェシュや細川俊夫の講座を受講した。同年エトヴェシュにより、ガルゴンザ・アーツ・アーティスティック・レジデンスに招待された。
https://www.franciscodominguez.info/
デイヴィット・ローチ(イギリス) David Roche
[作品名]
6つの祈り
SIX PRAYERS for orchestra
1990年、ウェールズのトレデガル生まれ。掃除機とオーケストラのための作品や、壮大なプラネタリウム・ショー、カスタマイズされたオランダのストリート・オルガン、ロックバンド、ビデオゲーム、映画、劇場のショー、そして国内外のオーケストラのための作品など、あらゆる分野で作曲している。彼の音楽は、現代の世界を意識的に逆説的にとらえて、祝祭的で明るいものであるか、現代の貧困や政治に呼応して、躁病的で、複雑で、暴力的なものであるか、2つのいずれかの世界に属している。作品は世界中で演奏され、ラジオやテレビでの放送や記事として取り上げられている。また30以上の学術的および専門的な賞を受賞している。
https://www.davidjohnroche.com/
カルメン・ホウ(イギリス/香港) Carmen Ho
[作品名]
輪廻
Saṃsāra for large orchestra
1990年、香港生まれ。オーケストラ、器楽、合唱のための作品を作曲。2018年ロイヤル・フィルハーモニック協会作曲賞を受賞。作品はBBCシンガーズ、ブリストル・アンサンブル、ブリストル大学交響楽団、アンサンブル360、アンサンブル・ヴァリアンス、ココロ・アンサンブル、アンサンブル・ムジークファブリークなどで演奏された。またスコットランド王立音楽院、キエフ現代音楽の日、ボーンマス交響楽団、ブリストル、武生国際音楽祭のワークショップに参加。ハル大学で学士号を取得し、ジョン・ピッカード教授のもと、ブリストル大学で作曲の修士号と博士号を取得。新しいオーケストラ作品《Somewhere in Between》(2020)は、The Robert H. N. Ho Family Foundation Composers' Scheme 2019/20の一環として、香港フィルハーモニー管弦楽団のために書かれた。
https://www.carmenho.co.uk/
「2020年度武満徹作曲賞 譜面審査を終えて」 審査員:トーマス・アデス
【総評】
このたび譜面審査を終えて、下記の4作品を武満徹作曲賞の本選演奏会に選びました。
■ ボレアス
■ MIDIの詩
■ 6つの祈り
■ 輪廻
芸術分野でのこうした相対的な選考プロセスは、必然的にきわめてパーソナルなものとなります。なるべく自分自身の美的感覚に左右されないように努めましたが、それでも、いかなるイディオム(作風)の曲であれ、個人的な表現とプラクティカルな想像力、自由さと精密さ、野心と豊富な経験といった点においてバランスの取れた作品を選んだという意味では、私自身の好みに従いました。芸術性とは、こういった言葉では説明できないことにこそ見出すことができると信じています。こうした緊張関係の相互作用とコントロールにおいて、音楽は生命を得るのです。
大多数の作品が同じ美的な方向性を持っていました。すなわち約80の作品では、音楽的内容よりも、音響的あるいは擬音的な効果が重視されていました。音楽的内容は、いかなる形式または様式の作品の中にも見出すことができますが、それが不在な場合、または奥深くに埋もれて生き残れない場合ははっきりとわかります。さまざまな理由により、死んでしまった作品もあります。とりわけ多いのは、既存のものの表面を単に真似しただけものです——ベートーヴェンの直接のパスティーシュ(模倣)にせよ(そういった作品も1作ありました)、空虚なオーケストラ効果の再現を説明的なタイトルのみでつなぎとめたような作品にせよ(こうした作品は数十作ありました)。
最終的に私が選んだ4作は、和声および表現のイディオムの点ではかなり多岐にわたりますが、いずれの作曲家も単なる目標の実現を超えた芸術性と技巧を備えていて、また作曲という芸術がつねに音楽に耳をすまし、自分の限界を超えて学ぶという終わりなきプロセスであることを認識しはじめていることがはっきりわかる高水準の作品でした。
【本選演奏会選出作品について】(エントリー順)
■ ボレアス
この作品は、擬音的な響きの世界と、繊細で高度化された和声、さらにウィットと想像力と機智に富んだオーケストレーションをうまく調和させています。
■ MIDIの詩
この曲は、精密に考えられた密度の濃いオーケストラのテクスチュアの中で、力強く勢いのある際立った個人的な表現を達成しています。
■ 6つの祈り
作曲者はこの作品において果敢にも、異例なほど具体的な旋律素材を、エキサイティングかつ直接的な手法で用いており、きわめて激しい表現力を持ったパッセージが見られます。
■ 輪廻
精密に描かれたミニチュアの風景のようであり、作曲者は繊細で洗練された和声感とオーケストラに対するすぐれた感性を持ち、真の旅のような感覚を創り出しています。
トーマス・アデス
(訳:後藤菜穂子)
◎本選演奏会情報
2021年1月19日[火]18:30(当初予定の2020年5月31日[日]15:00から変更)
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
コンポージアム2020
「2020年度武満徹作曲賞本選演奏会」
審査員:トーマス・アデス
指揮:杉山洋一
東京フィルハーモニー交響楽団
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