本展に寄せて:メッセージ
Messages to the Exhibitions
西高辻󠄀信宏
ライアンとは15年程の付き合いになるが、一緒に時間をかけて準備し平成23年(2011)に開催した、第6回太宰府天満宮アートプログラム 「ライアン・ガンダー You have my word」展のことが最も思い出深い。
開催の2年程前に太宰府天満宮を題材とする作品制作を依頼したが、ライアンは何度も太宰府に足を運んでリサーチを重ねる中で、天満宮のみならず背景にある神道の思想、神社の存在や役割にも大きな興味と関心を抱き、当初のこちらの依頼を超える提案を受けたのだ。作品設置場所は境内各所に拡大し、神社・神道の本質である「大切なものは目にみえるものばかりではない」ということを膨大なリサーチの中で掴み取り、そこを発想の起点としながらも大胆にユーモラスに飛躍して、数々の作品を生み出した。目に見えない磁力によって引き寄せられた金属片の塊(「本当にキラキラするけれど何の意味もないもの」)、ロダンの「考える人」が立ち去った痕跡が残った石(「すべてわかったVI」)などの作品群は、展覧会から10年経った今も、時間の経過と共に作品は趣を増しながら境内で参拝者を迎え、神道の本質を問いかけ意識させる役割を果たしている。
ライアンにとっては、神社も神道も未知のものだったはず。その時のことを「だんだんと神道とコンセプチャルアートには、たくさんの共通点があると思うようになりました。接するだけでは理解できない。でも時間をかけてエネルギーを使って理解しようとすると、分かってくるんです。まるで思考が進化するみたいに」と話していたが、まさにライアンの作品や視点にも大きく共通する部分だと思う。例えば「神道にまつわる10の質問」という作品で、「神道に匂いや音があるとすれば、それはどんな感じですか?」という質問があったが、この問いに私は衝撃を受けた。神道が身近にあり過ぎて、却って意識出来ていないものだったからだ。それはライアンの眼によって光を当てられた「大切なもの」が、浮かび上がってくるのを目の当たりにしたかのような出来事であり、ライアンとの交友を通して、私は先入観や形式に囚われずに物事を多面的に捉える面白さを学んだように思う。
ライアン・ガンダーという稀代のアーティストが手掛けた、今回の東京オペラシティアートギャラリーでの展覧会では、きっと多くの人にとって、私と同様の忘れられない体験が待っていることだろう。
西高辻󠄀信宏(にしたかつじ・のぶひろ)
太宰府天満宮 宮司
昭和55(1980)年太宰府市生まれ。
御祭神菅原道真公から数えて40代目の子孫に当たる。
東京大学文学部(美術史学)卒業。國學院大學にて修士(神道学)号並びに神職資格を取得。
太宰府天満宮に奉職後、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員として留学。
神職としての祭祀奉仕に加え、積極的に美術展企画やまちづくりに携わる。
平成31(2019)年4月1日付にて太宰府天満宮宮司を拝命。
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