展覧会についてExhibition
ヘリット・トーマス・リートフェルト(1888-1964)
世界を変えた椅子《レッド・ブルー・チェア》
リートフェルトは、富の象徴としての伝統的な家具に飽き足らず、真に現代的な生活のための新しい家具や建築を模索し、モンドリアンらのはじめたオランダの前衛芸術運動「デ・ステイル」(1917-32)に参加しました。デ・ステイルは、三原色と直線というもっとも基本的な造形要素によって新たな環境を生みだすことを目指していました。リートフェルトの名作椅子《レッド・ブルー・チェア》(1918-23頃)は、デ・ステイルの色彩とともに、材と材を互い違いに交差させるユニークなジョイント構造で際だっています。それは、家具の新しい概念と、のちに建築にまで広がっていく独自の空間性をきりひらくものでした。
抽象空間の先鋭性と素朴な手作り的アプローチ
リートフェルト初の建築作品となった《シュローダー邸》(1924)は、壁や窓などの要素を互い違いに交錯させ内と外を流動させることによって、空間を囲う「箱形」としての従来の建築を否定し、まったく新しい開放的な空間を提示しています。同時に、この小さなローコストの住宅は、夫を亡くし愛児3人と親密かつ豊かに暮らしたいという施主シュローダー夫人の希望に応えるべく、彼女との協働によって生みだされたものでした。そこには、育児をはじめさまざまなニーズに対応する空間のフレキシビリティ、プライバシーと親密さのバランス、シンプルな機能性、そして自然との共生など、今日にもつながる新しい「暮らし」へのヴィジョンが、家具職人としの工夫とともに、随所にちりばめられています。素朴な暖かみのある手作り的なアプローチから驚くべき先進性を実現したリートフェルト独自の物づくりの姿勢は、今日にいたるまで、この家を訪れる人々に強い印象を与えつづけています。