展覧会についてExhibition
ディック・ブルーナ(1927-)
グラフィック・デザインにみるメイキング・オブ・ディック・ブルーナ
マティスやレジェらモダン・アートに啓示を受けアーティストを志したブルーナは、1951年から本の表紙やポスターを本格的に手がけ、1955年からシリーズ化されたペーパーバックの表紙デザインは以後20年で約2,000点に及びました。そこではグラフィック・デザインが持つべき視覚的インパクト、表現のシンプルさ、そして平面における線と色彩の強度など、あらゆる課題やテーマへの取組みが系統的になされており、まさにブルーナのデザイン語法と哲学が確立していくさまが見て取れます。
シンプルな線と色彩が紡ぎだすブルーナの絵本の世界
ブルーナが平行して熱心に取り組んだのが絵本の制作です。とりわけ1970年代以降は絵本作家としての活動に軸足が移り、「ミッフィー(うさこちゃん)」のシリーズをはじめとして多くの絵本が各国語に翻訳されてきました。黒い輪郭線と赤・黄・青・緑の4色(のち茶と灰を加えた6色)の色面のみによる表現。そして韻をふんだ文章とイラストが交互に並ぶ24頁を15.5センチ四方の正方形に収める基本フォーマット。定められた条件のなかで多様に展開するブルーナ絵本の世界は、シンプルであるがゆえに普遍性と、見る者の想像力がはたらく余地を充分に残す懐の深さを兼ね備え、さらに特有の大らかさ、素朴さ、人間的な暖かさによって、世界中の人々を魅了しています。
ブルーナのデザインとオランダの物づくりの伝統
ブルーナが極めて限られた基本要素によって驚くほど多様な表現を実現させていることは、オランダのデ・ステイルの美学を、彼が受け継いでいることの証ともいえるでしょう。そしてなにより、与えられた条件のなかでやり繰りし、工夫を重ね、もっとも適切で合理的な答えを出し、それとともに生きてゆくことをよしとする、オランダの物づくりの伝統と生活倫理は、ブルーナがリートフェルトと共有する最大の特質といえるでしょう。