屋根にタンポポやニラが植えられた住宅、皮付きの木材を柱にした巣箱のような茶室。藤森照信の作品は、建築の通念を軽やかに超えた新しさと、遠い記憶を呼び起こさせる懐かしさを併せ持った、きわめて独創的な建築として知られています。20世紀の近代主義が創造したのは科学技術に裏打ちされた機能的な建築でした。自然との関係や歴史性、地域性を排し、国際的普遍性を備えた建築は「インターナショナル・スタイル」と呼ばれ、新しい建築の方向性を示す運動として認められる一方、無機質な人工物を量産した結果、都市の表情を奪う要因ともなりました。現代の建築家がこうした矛盾を克服しようと未来に向かって模索する中、藤森は自然の素材、地域に残る昔ながらの技法など近代建築が排したものを取り入れた「過去に向かっての前衛」を試みました。国家や民俗、建築様式が生まれる以前の、いかなる枠組みにもとらわれないインターナショナルにしてヴァナキュラー
会場では、処女作《神長官守矢史料館》から今年4月に竣工予定の最新作《ねむの木美術館》にいたる藤森の全作品が紹介されるとともに、ヴェネチアでも好評を博した竹と縄で編まれたドーム型シアターが更にスケールアップして「縄文建築団」によって再び制作されます。「自然素材と植物を使って建築と自然の関係を根本から考え直し、かつ人類がはじめて建築という人工物を作った時点に迫りたい」という藤森の試みは、手仕事で仕上げた壁面、屋根、木仕上(もくしあげ)の見本でも明らかにされ、空想上の建築と見まがうばかりの藤森作品をリアルに体感する場となります。